博物館と聞くと、歴史を学んだり昔のことを知ったりする場所だと思う人が多いかもしれません。ところが、博物館には未来を感じることができる展示もたくさんあり、これからの世界がどう変わるかを見たり考えたりすることができる場所なんですよ。
この連載「未来をのぞける博物館」では、未来にまつわる展示を通して、私たちがどんな世界に向かっていくのかを一緒に考えてみようと思います。
連載1回目は、岩手県陸前高田市にある「東日本大震災津波伝承館」を紹介します。
地震や津波はこれからも起こる

2011年3月11日14時46分、国内観測史上最大規模のマグニチュード9.0に及ぶ東日本大震災が発生し、死者1万8,131人、行方不明者は2,829人(平成24年9月28日付総務省消防庁の発表より)という甚大な被害になりました。
岩手県南部に位置し、高さ約15mにも及ぶ大津波の被害を受けた陸前高田市には、国と地元自治体が協力する形で高田松原津波復興祈念公園の整備が進められ、2019年9月22日に、公園の中核施設である東日本大震災津波伝承館が開館しました。

当館では、シアターのほか、展示パネル、実際に被災した消防車や信号機などの展示物を通して、津波被害の事実と教訓を後世に伝えています。
当時の津波の様子はテレビやインターネットなどで何度も目にしてきたものの、津波によって山際まで押し流された状態で見つかった消防車、バス停や駅名標が折れ曲がる姿を見ると、改めて津波の恐ろしさを思い知らされます。

このようなインパクトある展示のみならず、当館では過去に発生した津波の歴史、さらにはこれからの未来に生かせる教訓なども扱っています。

三陸沿岸地域は、いくつもの湾が複雑に入り組んでいるリアス式海岸であり、津波の高さが大きくなりやすい地形となっています。それゆえ、三陸地方の津波の記録として最も古い869年の貞観津波が発生して以降、たびたび津波被害に見舞われてきた歴史があるのです。
そのため、当施設では、過去の史実から「これからも地震や津波は起こるもの」と考え、「それを踏まえ、この地で暮らしていくためにどうすべきか」を伝えています。
三陸地方に伝わる「津波てんでんこ」の精神

たびたび津波被害に見舞われてきたゆえに、三陸地方には先人からの教えも残されています。
古くは、その場所に津波が到達したことを伝えるために先人が碑を建てていたり、津波からの避難における合言葉として「津波てんでんこ」という言い伝えがありました。「津波が来たら周りを気にせずてんでんばらばら、それぞれで逃げなさい」と親から子、孫へと伝えられてきた言葉です。
また、3.11を機に新たな啓開作戦である「くしの歯作戦」も生まれました。これは「内陸部を南北に貫く東北自動車道と国道4号から、『くしの歯』のように沿岸部に伸びる何本もの国道を、いかに救命・救援ルートを確保に向けて切り開く作戦のこと」を指し、当施設の東北地方整備局から移設展示してある災害対策室で学ぶことができます。
復興の象徴である“奇跡の一本松”

高田松原津波復興記念公園には、伝承館以外にも津波によって折れ曲がってしまった陸前高田ユースホテルなどの震災遺構が残されています。その中でも最も有名なのは“奇跡の一本松”ではないでしょうか。
高田松原の海岸沿いには約7万本もの松が広がっており、この1本の松のみが、大津波に襲われながらも唯一耐え残りました。園内の松は複製ではあるものの、多くの人々に勇気と感動を与えている復興のシンボルとして、今でもモニュメントとして残り続けています。
地震や津波は、また必ずやってきます。
昨年においても、正月に発生した令和6年能登半島地震など度々地震が発生しており、政府の地震調査委員会が南海トラフ巨大地震の30年内発生確率を「80%」と公表したことも話題になっています。
地震のみならず、台風、洪水、大雪、土砂崩れなど、日本で生活する限り日頃から自然災害への備えをしておくことが大切です。
同じ犠牲を生まないためにも、当施設を機に、これからの未来に自然災害とどう向き合っていくべきなのか、考えてみてはいかがでしょうか。


博物館に行ってみよう!
東日本大震災津波伝承館 いわてTSUNAMIメモリアル
- 住所:岩手県陸前高田市気仙町字土手影180番地(高田松原津波復興祈念公園内)
- 開館時間:9:00〜17:00(最終入館16:30)
- 休館日:年末年始(12/29から1/3まで)、臨時休館日
- 入場料:無料
- 公式HP:https://iwate-tsunami-memorial.jp/