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“世代を超えた対話”でタブーを超える未来(ランドリーボックス 代表 西本 美沙) #2040年代の働き方シリーズ

#2040年代の働き方」、シリーズ1回目は女性のヘルスケアプラットフォームを運営する、ランドリーボックス株式会社代表の西本美沙さんにお話を伺いました。

タブーとされてきた領域に10年以上挑戦してきた西本さんが見据える「2040年代の働き方」は、一体どのようなものでしょうか。「世界を変える」という大きな視点だけでは霞んでしまう、「主語を小さくしたカラフルな世界」という示唆的な未来像が西本さんの視線の先に広がっていました。

西本美沙氏
ランドリーボックス株式会社 代表取締役

女性のヘルスケアに特化したプラットフォームを立ち上げ、生理や更年期、セクシュアルウェルネスなどの悩みを抱える当事者の声を発信。最近では、外陰部を説明するためのパペット「Ba-Vulva(ばあばるば)」の制作など、新しい取り組みも展開。

自分の悩みを発信することで対話が生まれた原体験

ランドリーボックスは、女性のカラダやココロの悩みに寄り添うコミュニティプラットフォーム。生理やセクシャルウェルネス、性教育などをテーマにしたメディアコマースです。

西本さんがランドリーボックスをはじめたきっかけは、広報を担当していた会社員時代に遡ります。
個人ブログを通じて「性」に関する情報発信を始めたことに始まります。

西本さん –
ファッションや食べ物が主流だったブログの中で、私はに関する話題に関心があって、セクシュアルトイなどを紹介したり、アンケートを取って公開したりしていました。すると、『私も悩んでる』『あなたのところはどう?』と相談が来るようになって。当時(2012〜13年頃)は、性やセックスの話は今よりもっとタブーでしたが悩みを可視化すると声を上げやすくなるんだと実感したんです。

西本さんは、読者や知人と性にまつわる対話を重ねるうちに、とあることに気づいて2019年に起業することになります。

西本さん –
いろんな人の話を聞くなかで気づいたのが、”セックスにまつわる悩み”以前に、自分の身体を理解していない人がとても多いということでした。たとえば、パートナーに『行為中のどこが痛い』と伝えようにも、自分の状態がわからなければ言葉にできない。だから、まず自分の身体を知ることが大事だと思ったんです。

そこで、生物学的女性の方の多くが月に一度体験している生理をひとつの入り口にしました。毎月の不快感を把握し、生理用品を変えることで快適になったという体験は、他の選択にも応用できる。その小さな成功体験をきっかけに、少しずつ自分の身体を理解できるようになる。

そんな背景から、“生理”を起点に、“女性のヘルスケア”全体を考える場としてランドリーボックスは始まりました。

「人の価値観が変わる瞬間」は面白い。そして嬉しい。

さらに西本さんは、PRを担当していた前職時代の体験を振り返りながら、自身の根源的なビジョンにも言及します。

西本さん –
前職でPR担当をしていたとき、ダイオウグソクムシに関わるコンテンツを担当しました。深海生物で見た目は「気持ち悪い」と言われいましたが、多くの方がコメント等でストーリーを綴っていくうちに、私も愛おしく感じるようになりました。

そのコンテンツは大人気となり、きもカワイイ生物として認知されるようになりました。最初は「気持ち悪い」と思われていたものが、何かをきっかけに「好き」や「かわいい」に変わる瞬間に立ち会えたことは、とても面白く、嬉しい体験でした。

性にまつわる話題も、最初は「タブー」とされがちですが、ちょっとしたきっかけで柔軟に捉え方が変わることもあります。そうした「思い込みを楽しく更新する体験」を提供できたらいいなと思っているのは、今振り返ると、ずっと自分の中で根底にあった気持ちかもしれません。

10年間の社会変化の向き合い方:”フェムテック”のブーム

ここ数年でフェムテック(女性特有の健康を扱うテクノロジー領域)は、国を挙げて推進している分野となりましたが、西本さんはどのようにこの社会の変化を捉えているのでしょうか。

西本さん –
10年前よりも性に関するタブー視は薄れた気はしますが、性にまつわる悩み自体は昔も今もほとんど変わっていません
たとえば、セックスに関する悩みやデリケートゾーンなど身体の悩みは、普遍的なもので、情報が溢れていても、結局同じ悩みを抱え続けています。昔書いた記事も今でも読まれているので、みんなの悩みはあまり変わっていないのだと感じます。

つまり、相談できる場所や環境はまだ整っていないのかもしれません。
専門家に「そのままで大丈夫」や「こうすればいい」と相談できる機会があれば悩みを抱えることは減るのかもしれませんが、受け皿が増えているわけではなく、学校教育も含めて、まだまだ足りない部分が多いと感じます。

ここ10年で、セクシュアルウェルネス(性の健康)や女性のヘルスケア領域についてのタブー視が少しずつ薄れてきたことは感じているものの、根本的な悩みや問題は昔と変わっていない。
そして、フェムテックの領域が拡大していることについて、西本さんはこう続けます。

西本さん –
フェムテック、フェムケア”という言葉が広がったことで、関心を持つ人が増えたり、プロダクトやサービスが出ることで、“あ、私これ悩んでたんだ”と気づけたり、我慢せず選択肢を試せるようになるのはすごく良い流れだと思います。
ずっと前から活動していた方たちにスポットが当たっているのも、本当に素晴らしいことです。

でも、“トレンド”として一過性で終わって欲しくないなと思います。今は注目されているけれど、来年どうなるかはわからないというようなことではなく、こうした悩みは普遍的なもので、流行りとして悩み自体も消費されるのは怖いなと感じます。

また、フェムケア商品が増えるなかで、“悩んでいる人が悩みをケアできる”のは良いことですが、“女性ならケアすべき”“ケアするのが当然”というメッセージングにつながる可能性もある。それが逆にコンプレックスを植え付けて、自己肯定感を下げてしまう可能性もあるのでとても注意が必要です。

“いろんな選択肢があるよ”とは伝えたいけれど、“これを使うべき”とは言いたくないんです

新たな取り組み「Ba-Vulva(ばあばるば)」プロジェクトから見える、未来の働き方

ここ最近の西本さんの活動としては、外陰部を説明するための性教育パペット「Ba-Vulva(ばあばるば)」を制作し、受注生産を開始しました。生産者は高齢者の手によって作られています。最年長は、西本さん自身のおばあちゃんで94歳です。

西本さんは「Ba-Vulva」の制作背景を語りながら、「性教育パペット」という存在を超えた新たな職業像や、高齢者の未来の働き方も示唆してくれました。

西本さん –
性教育や女性の身体に関する話題を、より分かりやすく、親しみやすい形で伝えたい
と感じたんです。それに情報を伝えるだけではなくて、大切な人と対話するきっかけを作れたらと思いました。
いま、身のまわりにおばあちゃん世代の方が多いからかもしれませんが、“世代間を超えた対話”って、自分にとってすごくフィットするテーマだなって感じはじめています。
なのでBa-Vulvaは単なる道具に留まらず、世代を超えた対話のツールとして機能することを目指しています。特に、おばあちゃん世代との協働を通じて、私自身も学ばせてもらっていますし、新たな価値観を生み出し、世代を超えた対話の場を創出していきたい。

身体にまつわる“タブー”って、やっぱり上の世代のほうがずっと強かった。でも、それを少しずつ越えてくれる先輩たちや新しい世代がいて。そういう姿を見ると希望も感じるし、やっぱり“先輩たちがどう思ってたか”っていう話をきちんと聞くことって、現在の考え方を変えていくことにもつながると思うんです。
たとえば、親として娘にはちょっと厳しかったり「親」としての言動が多くなるのに、孫には何でも話してくれることもある。そして、娘も親と孫との会話で気づくこともある。そういう世代間の“変換”みたいなものにも、私はすごく興味があります。

だからこそ、今のこの環境を活かして、世代をまたいだ対話や関係性の“実験”をしていきたいなと思っています。

なるほど、西本さんは「世代間コラボレーター」とも言える新たな職業の実践者でもありました。
そして、その世代を超えて生み出された新たな価値は、タブーとされていた価値観や常識を変えていく。
まさに西本さんは、その道を切り拓いているところなのでしょう。

初代Ba-Vulvaは、西本さんのおばあちゃんが手作りしたもの。現在はいろんな”ばあば”と一緒に作っています。

2040年代に向けた未来の働き方:性教育者も稼げる時代になるための仕組みを

更に西本さんは、現在すでに見えている未来の働き方の兆しについて、こう続けます。

西本さん –
性教育の分野で言うと、最近は“フリーランスの性教育者”の方もいます。例えば、中学校の学習指導要綱では「妊娠の経過は取り扱わないものとする」という「はどめ規定」と呼ばれる性教育にまつわる障壁があったり、先生たちも性教育を学んできていないから教えるのが難しい現実もある。そこに危機感を感じた助産師、医師や専門家がアフタースクールや講演のような形で教える機会も生まれてきています。

それは、“必要だよね”とわかっているけれど、システムが変わるのを待ってはいられない、子供達にとっては”今”しかないとみんなが危機感を感じはじめてるからこそ起きている流れなんだと思います。

あとは学生たちが学校の中で自主的に動いてるケースも増えています。たとえば、生理用品を展示して意見を集める活動をしてみたり、サークルみたいな感じで“自分たちにできることからやっていこう”という動きもあります。若い世代の能動的な姿勢にはすごく希望を感じます。

この未来の兆しを感じ取る一方で、その世界をつくるために必要なことや、2040年代にあるべき未来像への想いもこう続けます。

西本さん –
一方で、性教育って現状だとお金になりにくい分野ですよね。想いを持って活動している学生たちも、社会に出るタイミングでやっぱり現実的に続けられなくなってしまうことも多い。

だから、次のフェーズとしては、そういう想いのある人たちが“ちゃんと仕事として続けられる”、つまり“稼げる”状態にしていかないと、この分野は育たないように感じます。

もちろん、個人や専門家に委ねるだけでなく、学校教育の構造自体も根本的に変えていくことがとても大切ですが、それだけでは賄いきれない部分がある。

性教育を実践し、性の悩みと向き合う専門家が“職業として成り立つ”未来をどう作っていくか。
2040年に向けて、たぶんそういうところがすごく大事になってくるんじゃないかなって感じています。

2040年代の働き方に向けたマインドセット:主語を世界から私にする小さな生業づくり

西本さんは、この10年活動してきた中で、自身のビジョンの描き方自体に変化が訪れ始めていると続けます。

西本さん –
ランドリーボックスで掲げるビジョンというより、個人的な話ですが、今は“主語を小さくしたい”という気持ちが強いんです。例えば「女性」という言葉にしても、身体も悩みも価値観も本当に人それぞれなので、目の前にいる人や、自分がちゃんと関われる人たちと向き合いながら、自分が何を変えていけるのかに立ち返りたいなと思っています。

今は、遠くの大きな理想よりも、自分の目に見える範囲で、具体的にできることを丁寧にやっていきたい。そんなフェーズにいます。
でも、それって未来の話にもつながっていて——すごく当たり前のことになってしまうんですけど、“このままの自分でもいいんだ”って思えるような自己肯定感をどう育てていくかって、やっぱりすごく大事だなと思っていて。

身体のことも人生の価値観も、変わっていくのが自然。変化を肯定できる風土があれば、生きづらさは少しずつ減っていくのかなって思います。

西本さんは、個人的な話にとどまらず、未来の理想的な社会像の話へと話を広げていきます。

西本さん –
主語を小さくして、手の届く範囲で動く人が増えたら、世界はもっとカラフルになる
と思うんです。生成AIのような新しいツールも出てきて、ひとりでできることがどんどん増えている。そんな中で、身近なことを楽しみながら始めていくのって、すごくいいなって。

最近は“いま、ここでできること”を試す人が増えている気がします。飲食店でバイトをはじめたり、趣味を拡張させてサロンをスタートした人もいます。私も個人として、もうひとりのおばあちゃんの認知症との向き合い方を変えるためにはじめた「Sumikoプロジェクト」や、4年前に自分や家族のためにとった耳ツボの資格でポップアップをしたりしています。

西本さんのもうひとりのおばあちゃんSumikoさんをトートバックやシャツに印刷して配布。友人たちの写真を見せて、認知症のおばあちゃんに「東京でSumikoが流行っている」と伝えているそう。

もちろん、こういう活動自体が短期的な収益性が高いかというと、そうでもない。でも、2040年に向けてもし資本主義の構造が変わりつつあるとしたら、“楽しくて、つながれる”ということそのものが価値になる。そして、そこを起点とした事業がはじまったり、今の事業とつながったりする可能性もある。そんな気がしています。

当社の未来年表で注目する未来の兆しを選ぶ西本さん
「生殖目的から解放される2050年の性愛」をセレクト

まとめ:2040年代の働き方の未来予報

西本さんのお話から、いくつかの2040年代の働き方や新職業が見えてきました。
これからあらわれる{かもしれない}新職業として、いくつかまとめて、おさらいをしましょう。

世代間コラボレーションプロデューサー

多世代を繋いだ対話の場を通じて、価値観や視点の違いをコンテンツとしてプロデュースすることで、まわりの人から超少子高齢化の社会の意識を変革していく仕掛け人。

セックス・エデュケーター

子どもから大人まで、多様な性のあり方や選択肢について対話をする教育者。「こうあるべき」という固定概念をなくし、その人らしい選択肢を丁寧に解きほぐすカウンセラー&コーチ。

ネイバーフッドフォワーダー

半径5km程度の身近な範囲でできる小商を連鎖的に繋げていく考えを持った生業コミュニティ。いくつもの草鞋を履きながら、小さな自分のやりたいことを行うポートフォリオワーカーの未来の姿。

あなたは2040年代、どのような働き方をしたいですか?

次回の#2040年代の働き方も、お楽しみに!

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ソガコウタロウ

ソガコウタロウ

Futures Literacy Journal 発起人

未来像{HOPE}をつくる専門会社 未来予報株式会社 aka VISIONGRAPH Inc. aka SXSW Japan Office の 共同代表。未来に関わるプロジェクトをデザインしたり、リサーチしたり、未来の予報を作ったりします。 乗り鉄 / キャンプ / サウナ / 音楽 / 旅行 / ヨガ / 家庭菜園 などが趣味ワード。HeとでもTheyとでもお呼びください!

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