2014年にシステムエンジニアを変革するプログラムとして始まった富士通の「FUJI HACK」は、2025年で12年目を迎えた。当初は社内向けのハッカソン※として社員のアイデア出しや事業創出、人材育成を目的としていたが、時代の流れとともに外部企業など社外の人々を巻き込む「共創」の場へと進化を遂げてきた。
大企業の中で変化の火を灯し続ける「FUJI HACK」は、どのようにして「共創」の場となり、進化を続けてきたのか。FUJI HACKの立役者である富士通の古川さんと川口さんに、また「FUJI HACK」のインプットトークを務めているVISIONGRAPHの宮川の3人に、これまでの取り組みと今後の展望を聞いた。
※ハッカソン…エンジニアやデザイナーなどが集まってチームを組み、特定のテーマについて短期間で開発を行うイベント
写真左:VISIONGRAPH Inc. / 未来予報株式会社 Futurist 宮川麻衣子
写真中:富士通株式会社 CEO室 DX Division 古川達也さん
写真右:富士通株式会社 CEO室 DX Division シニアマネージャー 川口紗弥香さん
世界のグループ会社全体で12万人を超える大企業の試みとして、10年以上も未来思考を広げるプロジェクトが、形を変えながら継続しているということが、まず驚きだと思いました。大体3年もするとプロジェクトの存在自体が無かった事になることが多い中で、FUJI HACKの皆さんがどのように守り続けてきたかを知りたいと思いました!
ハッカソンのアウトプットの幅を広げるため、未来志向を取り入れた
――FUJI HACKが生まれたきっかけや、お二人の役割について教えてください。
古川さん:
「FUJI HACK」は、元々富士通社内のハッカソンとして始まった取り組みで、サービスビジネスを発展させる重点戦略施策の一環として生まれました。お客様から要請があったものを作る従来の受託型から、ありたい姿に向けてお客様と共に創る共創型にビジネスモデルが変わっていく中で、お客様と共に考えともに創る“共創人材”スキルの実践場と位置付けていました。
私は企画・運営メンバーの一人で、これまで企画から運営、プロジェクトマネジメントまで担当してきました。現在は、主に広報領域におけるクリエイティブディレクション(フライヤー、Webサイト制作の統括)や、参加者コミュニケーション全体の管理、オペレーション周りなどを担っています。
川口さん:
お客様自身がまだ明確にできていない未来も一緒に考えて、アイデアを出していく。そのうえでシステム要件に落としていく。そんなパートナーになることを目指して始まった取り組みです。毎年テーマや対象者を変えていきながら今年で12周年を迎えました。
現在、企画運営の中心メンバーは4名いて、古川さんと私は10年以上参画している古株のメンバーです。私はワークの設計や当日のファシリテーションなどを担当しています。
――12年も続いているんですね。どのように続けてこられたのでしょうか。
古川さん:
12年でさまざまな変遷があり、振り返ってみると大きく3つのフェーズに分かれます。第1フェーズは2014~17年までで、富士通発のハッカソンとして、この手法を活用して何ができるかを模索していた時期です。
川口さん:
2014年はSEの意識改革と、当時の富士通の全社的な戦略と方向性を合わせたテーマを置いていました。2015年は事業創出、2016年は人材育成をテーマにしました。人材育成をテーマにしたのは、ファシリテーターや企画側の人材育成もしたいと思ったからです。
富士通で9万人の社員がいる中で私たちがFUJI HACKをやるだけでは影響力が小さいので、参加者がそれぞれの部門で持ち帰ってくれたらと考えました。
古川さん:
年々実施していく中で、よりアイデアの質をあげるために工夫できることはないかと考え、事前ワークショップ「未来洞察プログラム」を独自に開発し、ハッカソン前に導入することにしました。プログラムの内容は、VISIONGRAPH社の未来予報に関する講演をインプット材料に、参加者全員で数年先の未来を描き、今すべきことを考えるというものです。
川口さん:
具体的には、ハッカソンの初日に「自分たちで未来の種を見つけよう」という投げかけをするパートを設けることにしました。その一環として宮川さんにインプットトーク※を依頼するようになりました。
※インプットトーク…ワークショップなどの冒頭で、参加者の思考を刺激し、その後のアイデア出しや議論を活性化させるための話題提供や情報提供のこと。
宮川:
はい! お声がけいただき、2016年からインプットトークに参加しております。FUJI HACKの場にいると感じるのは、皆さんがとても温かい熱量を出されていることです。この空気の中にいたいと感じる人は多いだろうと思います。


アイデアの質は「問い」で決まる。参加者の思考の枠を外す「未来予報」という仕掛け
――FUJI HACKでの宮川のインプットトークについて、運営としての感想を教えてください。
古川さん:
宮川さんのインプットトークはすごく考えさせられるんです。実際に参加者のリアクションもとても多く、オンラインでのトークではニコニコ動画のようにコメントがぽんぽん上がってきます。アンケートでも「宮川さんの未来予測の考え方が興味深かった」という声が多いですね。
宮川:
「未来を考えるときは、現在の延長線上の予測をするのではなく、まず未来を考えて思考を広げていく未来予報をしましょう」とお伝えしていて、私自身が考えた未来予報についてもお話しします。
たとえば、言葉がインフレーションする世界、雨が降りやまない世界、空中で暮らす世界になったらどうなるか。そんな未来が訪れるなら、今いる潜在的なユーザーを調査して発見するのではなく、これから生まれるかもしれない理想のユーザー像を考えていくことが大切ですと伝えています。
――FUJI HACKでは、具体的にどんなインプットトークをしたのでしょうか?
宮川:
ここ数年のSXSW(VISIONGRAPHが日本の事務局を務める米国カンファレンス)でのテーマが「生成AI」だったこともあり、AIは私の「未来予報」で継続的に扱ってきたテーマなんです。
2021年には「AI国家」の誕生を予報し、翌2022年には『幸福論』をもじって、AIに降伏した方が幸せになれるという「AI降伏論」を。そして2023年にはAIを「思考の外部化ツール」と捉え、直近の2024年には「AIが思考し、人間が行動する世界」。このように、AIを巡る人間社会の変化について継続的に考えています。これらをインプットトークとしてお話しさせていただきました。
そして最後に「では、こんな世界になっていくときに、どう感じ、考え、何を生み出しますか」と皆さんに問うような形にしています。
川口さん:
参加者のアンケートにもありましたが、宮川さんが未来予報をとても楽しそうに話してくださるから、一緒に考えたくなってしまうんですよね。
宮川:
うれしいです。一生懸命やっていてよかったです。
川口さん:
FUJI HACKは自分自身が作りたい未来を考えながら、他の人とさまざまな知見を重ね合わせて作っていく場にしたいと思っています。そういった意味で、宮川さんのインプットトークはぴったりなんです。
宮川:
とても練られた企画であることはもちろん、一番すごいと感じるのは継続されていることです。テーマも毎年変えられていますよね。同じフォーマットのまま続けていたら、立ち消えてしまいがちですが、10年以上続けられているのはすごいことです。運営の方たちが、やり続けるという強い思いをもって、腹を据えて取り組んでいらっしゃると感じます。
川口さん:
毎年のテーマを考えるときにも、宮川さんが出している未来予報のレポート※を活用させてもらっています。運営メンバーがそれぞれ気になっているテクノロジーやトレンド、会社として注力しているものなど、まずはアイデアを出していきます。
※毎年、VISIONGRAPHでは翌年に起こるかもしれない未来について、10の「未来予報®︎」を発表しています。
古川さん:
宮川さんのレポートには、自分たちにない視点があるんですよね。ビジュアルや文章に刺激をもらっています。
2022年以降に、会社の垣根を超えた共創イベントへと進化
――その後、FUJI HACKはどのように進化していきましたか?
古川さん:
2019年には東京・大阪・スタジオの3拠点をオンラインで繋いで同時にハッカソンを開催しました。コロナ禍以前でしたが、さまざまな制約を超えてみんなが参加できるものにしたいという思いでトライしました。この経験があったからこそ、2020年にコロナ禍になりましたが、2019年の経験があったのでフルオンラインでのハッカソンもやり遂げることができました。
その後、大きく変化したのは富士通だけでなく他社の参加者や運営メンバーを増やしたことです。ここからが第3フェーズです。
――どんな経緯で、会社を超えた共創イベントになっていったのでしょうか。
川口さん:
富士通だけで続けていても、新しいものはなかなか生まれません。新たなビジネスが業界や職種を横断するものが多くなっているので、それなら最初から横断型でみんなでできたらいいんじゃないかなと思ったんです。2022年以降はさまざまな会社との共創を大事にしていて、当初のFUJI HACKのエンジニアの変革の比重は少し下がっている状態です。
――社外の方には、どのように声をかけていかれたんですか?
川口さん:
当時、社内の事業提案制度をもっと活性化させたいという課題意識がありまして。まずは情報交換を兼ねて、同様のプログラムを持つ他社さんに「どのように運営されていますか?」とヒアリングを重ねていました。その交流の中で、少しずつ「FUJI HACKを他の企業さんと一緒にやりたいと思っているんです」と構想を打ち明けていきました。
古川さん:
運営を一緒にしているFUJI HACK製作実行委員会のとあるキーマンが、2020年のフルオンラインのFUJI HACKに参加されて「とてもいい活動ですね」とおっしゃっていただき、以来、同社から毎年多くの方々にご参加いただいております。
川口さん:
賛同する企業が数社になったとき、複数社を集めてオンライン会議をしました。そこでドキドキしながら、「本当にオープンに開催していきたいのですが、一緒にやりませんか」とお話をしたんです。すると、上記のキーマンの方が「いいね、僕やるよ」と口火を切ってくださり、それをきっかけに周囲の皆さんも参加してくれることになりました。
――社外の方を巻き込んだイベントになったことで、どんな変化がありましたか?
川口さん:
2022年、2023年は富士通のエンジニアと、他社からは新規事業をやっている人や興味のある人を集めたんです。富士通のエンジニアはアイデアを形にする役割です。
富士通のエンジニアからは、「アウトプットに対して、『短時間でここまで作れるなんて、ITの力はすごい!』と驚かれてうれしかった」という声もありました。
古川さん:
アンケートでは「同じものを見ていても、会社の業界や個人の特性で捉え方が違うことに気づいた」「他社の人と一緒にチームを組んでアイデアを考える経験はしたことがないので、とても刺激になった」という声もよく聞きますよね。
川口さん:
FUJI HACKは限られた時間でインプットからアウトプットまで行います。3~4名のチームで短期間で集中して作っていくので、その経験が刺激的だと感じるようです。参加者からは「脳をフル活用して脳に汗をかいた」という声も聞きます。
――参加者同士のつながりも生まれていきそうですね。
古川さん:
参加者の方から「FUJI HACKの他社混合チームで定期的に飲みに行っています」と聞くこともありますね。
川口さん:
社外の飲み会で「FUJI HACKの運営の方ですよね?私、参加したことあります」と声をかけていただくこともあります。少しずつ認知が広がっていてうれしいです。
参加者が楽しんでいる様子が運営チームのやりがい
――FUJI HACKの運営で大事にしていることについて、教えてください。
宮川:
私がFUJI HACKに参加したときに感じたのは、参加者の没入感を大事にされていることです。参加者のチームごとにTシャツの色を分けていたりしますよね。イベントのチェックインがアミューズメントパークに入っていく入口のような感覚があって、参加者を一気に巻き込んでいく仕掛けだと思いました。
川口さん:
没入感は意識的にやっています。当初はFUJI HACKの目的はSEの変革であり、富士通の文化も変えていくことなので、会場の装飾や演出にもより力を入れていました。「今日はいつもの会社のイベントとは違うな、いつもの自分と違うことをしていい場なんだな」と感じてもらうことを意識していました。
古川さん:
お二人がおっしゃる通り、Tシャツで一体感を醸成するだけでなく、非日常的な空間でアイデア出しに没頭してもらえるよう、会場装飾にも毎年工夫を凝らしています。
2024年は「相撲会場のように、のぼりを盛大に並べて参加者を鼓舞したい」という企画メンバーの熱い想いを実現すべく、膨大な数のオリジナルデザインのぼりを設営しました。結果として非常に迫力のあるユニークな会場装飾となり、デザインを担当してくれた運営メンバーにも心から感謝しています。





――お二人は長くFUJI HACKの運営に携わられています。続けてこれたモチベーションについて教えてください。
古川さん:
一番のモチベーションは事務局のメンバーの存在です。運営メンバーは毎年入れ替わりますが、そのメンバー構成によってチームカラーが違うのも面白さの一つです。しかしそうした変化の中でも、これまで運営に携わってこられた歴代の先輩方が築いた「常により良いものを追求していく」という姿勢は変わりません。
各々がやりたいことをぶつけ合ってFUJI HACKを良くしていこうとしているので、一緒に仕事していて楽しいです。みんなから刺激を受けながら、自分もそれに対して打ち返していかなければと思っています。
川口さん:
同じことを続けていくのは進化ではないことを、みんなで共有できていることが大事だなと思っています。毎年ちゃんとテーマや意味をもって、失敗を恐れずに私たち自身が何かをハックするぞという意気込みで臨んでいます。
準備段階では大変なこともありますが、当日に参加者の方が楽しそうにしてくれていると「やってきてよかったな」と疲れが飛びますね。今では毎年参加してくれるFUJI HACKのファンのような方がいて、「あの人がこれからも来てくれるように頑張りたいな」とも思います。


――これまでを振り返って、社内にどんな変化を感じますか?
古川さん:
参画して10年経ちましたが、変化を感じています。キーマンになっているのは5年前に富士通の役員になった福田氏の存在です。入社してすぐ、FUJI HACKの活動を力強く応援してくれました。
正直なところ、ここまで長く続くとは想像もしていませんでした。しかし、「FUJI HACKを機にマインドセットが変わり、今の仕事にも活きています!」という嬉しいお声をいただく機会が増えて、続けてきて本当に良かったと感じており、この輪がさらに広がっていくように努力しなければいけないなということを感じています。
川口さん:
参加者の中には「自部門やお客様とハッカソンをやってみたいので教えてほしい」と相談してくれる方もいます。富士通は規模が大きいので、FUJI HACKだけで何かを変えるのは難しいかもしれません。グループ国内だけで9万人の社員の中では小さな粒かもしれないですが、何かしら変化に貢献しているかもしれないなと思っています。
年に一度、FUJI HACKに参加するだけですぐ変わるものではないですが、日々未来に対するアンテナが少し敏感になったり、日常で宮川さんのインプットトークを思い出したりする機会は増えていると思いますし、そうあってほしいです。
宮川:
10年以上続けてこられているので、確実に変化はありますよね。こうした取り組みを続けてこられていることが本当にすごいと思います。大企業のなかで取り組みを続けていくためのコツやヒントがあったらぜひ教えてください。
古川さん:
「ルールにはないけれど、やってはいけない訳でもない」。そうした領域を、いい意味で戦略的に活用することを大事にしています。 FUJI HACKは社内をハックする側面もあるので、「前例がないから」と諦めずにやりたいことを実現する突破力が必要です。今、運営にまさにその突破力がすごいメンバーがいて、いつも刺激を受けていますね。
また、最近は他社さんの参加を追い風に、「〇〇社さんもやりたいと言っています」と伝えることで、社内での提案を通しやすくなる、といった工夫もしています。
川口さん:
周囲の会社からFUJI HACKが認められていることで、信頼度も高まっているのかもしれないですね。
――FUJI HACKの今後の展望について教えてください。
古川さん:
2025年のFUJI HACKのテーマは顧客接点構築です。各部門のセールスとお客様に一緒にFUJI HACKに参加してもらうことで関係性を深め、ビジネスにつながっていけばと考えています。半数以上がお客様からの参加になり、毎月さまざまな形でFUJI HACKを開催しています。
川口さん:
FUJI HACKはさまざまな人の得意や”試してみたい”を実現できる場です。その軸はぶらさずに、進化するテクノロジーを活用しながら、さらにクリエイティブな場にする実験を今後も続けていきたいです。
直近3年は富士通だけでなく、さまざまな会社のメンバーと運営しているので、さらに範囲を広げて、多くの人がもつ知見や好奇心を詰め込んだ場にしていきたいです。今は3年後くらいの未来を考える未来洞察を行っていますが、今後はもっと先の未来を考える「大未来洞察」もしていけたら楽しそうだと思っています。今後もよろしくお願いします。
宮川:
これからもFUJI HACKの活動を応援しております!
FUJI HACK 12周年の特設サイトはこちら:https://www.fujihack.com/Annivasary
創業してすぐの2017年から関わらせてもらい、いつも未来予報の最新のレポートからインプットトークをさせて頂いています。どのような反応をされるのか、いつもドキドキしているのですが、毎回さまざまな反響を頂いて、私も励みになっています。今回、企画立ち上げから10年の歩みを一気にお聞きすることができて、何かプロジェクトを継続するときのヒントがたくさん詰まっていて、とても勉強になりました。人を巻き込み、没入させる仕掛けというのは、多くの人を動かすためには必須の事なんだなと改めて感じました。古川さん、川口さんの取り組みで、多くの人が未来思考を手に入れていっている様は、すごく理想の形です! 本当にありがとうございました!
執筆:久保佳那
編集:井上薫
