大阪府民の9割が知らない? 被害6兆円の大災害を防ぐ「巨大地下要塞」に潜入

未来をのぞける博物館シリーズの第8弾。今回は、大阪府にある「亀の瀬地すべり歴史資料室」を紹介します。

“地すべり”をテーマにした博物館を取り上げるわけですが、この言葉はあまり聞いたことがなくピンとくる方は少ないかもしれません。とはいえ、日本の様々な場所で地すべりの対策工事が行われており、その中でも今回紹介する大阪と奈良の県境付近では、規模が大きいことから県ではなく国が対応しているのです。

なぜなら、万一この地すべりが発生してしまうと、大阪のまちが大災害に襲われる可能性があるから

とはいえ、この工事の存在は大阪や奈良に在住している人たちどころか、周辺住民にも知られておらず、この資料室ではその工事の詳細、さらには地すべりという自然現象について知ることができるのです。

では、亀の瀬ではどのような地すべり対策工事が行われているのか。その全貌を紹介したいと思います。

知られざる“地すべり”を語り継ぐ資料室

県境付近にひっそり佇む資料室

そんな地すべり資料室の建物はこちら。

誰かに話したくなる内容ばかり

館内は写真やパネル、さらには周辺の模型などを通し、亀の瀬における地すべりについて知ることができます。

普段は、地すべりという単語すら耳に入ることはあまりないだけに、とにかく知らないことばかり。日々の暮らしは、このような我々の知らないところで行われる自然対策によって成り立っていると強く実感します。

地すべり対策工事で大阪の平和は守られている

関西の大動脈ともいえる大和川

大阪と奈良の県境付近に位置する亀の瀬。この場所には、奈良盆地から大阪湾へと続く大和川という川が流れており、奈良と大阪を結ぶ国道25号が通る交通の要所でもあるのです。

周辺が山々に囲まれている奈良盆地には150ほどの川が流れており、最終的には大和川に集められて大阪湾へと流れています。それだけ、奈良と大阪にとって大和川はなくてはならない存在なのです。

この亀の瀬という場所の由来は、この石がカメの形をしているから

しかし、よりによって亀の瀬は地すべりという自然災害が発生しやすいという実に厄介な場所でもあるのです。

では、地すべりとはどのような災害を指すのか?

似たような事象としては土砂崩れが挙げられるかと思いますが、土砂崩れは名前の通り土砂が崩れることを意味します。では、地すべりはどういう事象かというと、山全体が動く、ずれることを意味します。

赤枠部分の山が手前にズレている様子がわかるかと思います

館内にある上の写真を見ると、尚更イメージが湧きやすいかもしれません。

写真の下部を大和川と国道25号線が横切っておりますが、この写真の赤枠で囲まれたエリアが過去の地すべりによって手前側にずれており、それによって大和川と国道25号線も赤枠のエリアだけずれてしまっている様子が伺えるかと思います。

滑りやすい層があることが大きな要因

なぜ亀の瀬ではこうしたずれが起こってしまうかというと、こちらも館内にある上の図がわかりやすいかと思います。

この付近にある火山では、少なくとも二度噴火していることがわかっており、その噴火によって堆積したそれぞれの溶岩層の間にツルツルした摩擦の少ない粘土層が挟まっているのです。

これによって、粘土層の上部にある溶岩層が滑りやすい状況が生み出されてしまい、さらには雨水が染み込みやすいことも滑りやすくなる要因となっているのです。

本当にツルツルしてました

館内には、粘土層のサンプルも展示されており、実際に表面を触ることでどのくらいツルツルしているかを体感することもできます。

大和川が堰き止められた際の奈良側の様子

そして、万一、亀の瀬で大規模な地すべりが発生してしまうと、大和川が堰き止められてしまうのです。

先ほども書いたように、大和川は奈良盆地に集められた水を大阪湾に注ぐ唯一の川。万一堰き止められてしまうと水の行き場がなくなってしまい、奈良盆地にはダムのように水が溜まってしまうわけです。

そして限界まで水が溜まると、今度は土石流となって大阪平野を襲ってしまい、その被害額は6兆円とも言われているのです。それゆえ、亀の瀬での地すべり対策工事は何が何でも実施せざるを得なく、大阪府でも奈良県でもなく、国が対応しているのです。

とはいえ、工事自体は山の内側で行われていることから、外から見ると工事しているとは思いにくく、それが認知されない要因でもあるようです。

排水トンネルへの潜入も可能

探索時は懐中電灯が必須

当施設は予約制であり、訪問時はスタッフの方が説明してくれるほか、スタッフ同行のもとで実際に工事中の山の中を探索することができます。

コウモリが出てもおかしくない雰囲気

山の中には、網目のように排水トンネルが掘られており、それは、先ほどの粘土層の隙間に水が溜まると滑りやすくなってしまうことから、山の中に溜まった水を一刻も早く外に出すため。

この一部を、来館者が探索できるようになっています。

夏場は非常に涼しい空間になっている

ここからは立ち入り禁止。奥はどうなっているのでしょうか

中は1年を通して16℃ほどの気温。
周辺の地中に入った地下水が集まるため、大雨の時は傘がないと歩けないそうです。

日常ではなかなか体験できない異空間。外からは想像だにしない光景だけに、探索中はワクワクドキドキの連続でした。

実は鉄道マニアにも人気のスポット

レンガ造りの実に重厚なトンネル

そして、もう一つの見どころがこちらのトンネル。

なんと、明治時代に掘られた旧大阪鉄道のトンネルなのですが、こちらは排水トンネル工事を行っていた際にたまたま発見。

今では、多くの鉄道ファンがこのトンネル目当てに訪れるのです。

災害の記憶が生々しく残されている

トンネルの奥は、昭和初期に発生した地すべりによって塞がれたまま。

何が何でも滑らせない

これから先、二度と地すべりが起きませんように

そんな亀の瀬では、今も地すべりの対策工事が進められています。

現在はエリア内の100カ所ほどにセンサーを配置しており、24時間監視が続けられ、1ミリでも山が動けば検知できる仕組みになっているのです。

館内には3分の1の深礎工模型もあります

さらには、太さ6.5mで高さ100mの深礎工を170本打ち込んで食い止めています。今もずっと続いており、まだ深礎工は40本ほど残っていて、1年に5本打つのが限界であり、あと8年ほどはかかるそうです。

とにかく、何が何でも滑らせないために、今も工事が続いているのです。

地震、津波、台風などとにかく自然災害が多い日本。

何気なく過ごしている日々の日常は、我々の知らない場所でこうした対策工事に携わっている方々の存在があってこそなのだと思わされます。

そして現在のみならず、これからの未来、穏やかな日常を送るうえでは、こうしたことに関心を持つことで、これから起こり得る災害から少しでも被害が抑えられるのではないかと思います。

博物館に行ってみよう!

福井県年縞博物館
住所:大阪府柏原市大字峠
営業時間:9:30~16:30
休館日:月曜日(月曜日が休日の場合は火曜日)、年末年始
入館料:無料
公式HP:https://kamenose-infratourism.jp/room

丹治 俊樹

丹治 俊樹

博物館ライター

博物館マニアであり、「知の冒険」主宰者。本業であるフリーエンジニアのかたわら、博物館ライターとして、珍スポ/遊郭跡/博物館/昭和レトロなど2000スポット以上を取材。テレビ、ラジオ、雑誌などのメディアに出演するほか、書籍の出版、講演会の開催なども行う。二郎全店制覇。著書に『世にも奇妙な博物館 〜未知と出会う55スポット』などがある。 ブログ「知の冒険」:https://chinobouken.com/

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