毎日使う“紙”から、未来を考える! 渋沢栄一の意志を受け継ぐ「紙の博物館」

未来をのぞける博物館シリーズの第12弾。今回は、東京都北区にある「紙の博物館」を紹介します。

紙の博物館は、JR王子駅から歩いて5分ほどの場所に位置しています。桜の名所としても知られている飛鳥山公園内にあることから、春になると多くの花見客が訪れる場所でもあります。

紙というテーマに関して様々なことが知れる

デジタルが普及しても、紙に触れない日はない

そんな当館は、普段身近に接している紙について、和紙や洋紙のみならず、リサイクルや製紙産業の取り組みなど、紙というテーマについて幅広く扱っています。

「身近な素材である紙を知ってもらいたい」という思いをもとに、日本における洋紙産業が発展した軌跡、紙の歴史や製造工程、紙のリサイクルや身近な紙製品について、さらには和紙の文化に関する展示が見られます。

やはり、紙なくして生活は成り立たない

日常生活でおなじみの紙製品も数多く実物展示されており、そうした展示からはどこか親近感が伝わってきます。

近年はパソコンやスマートフォンの影響でノートやメモを用いる機会が減るほか、電子書籍の出現で紙の書籍を手に取る機会も減るなど、時代の流れとともに紙離れが進んでいるようにも感じる昨今。

とはいえ、トイレットペーパーや紙パック、紙袋、紙コップ等の展示を見ることで、日常生活のさまざまな場面で、今なお紙製品に支えられていることを改めて実感させられます。

世界最大級の洋紙が壁を覆う

日常生活でおなじみの展示がある一方で、インパクトの大きい見ごたえのある展示も館内で見られますので、いくつか紹介したいと思います。

この壁に展示するだけでも大変そうです

一つめの見どころは、2階の展示室に展示されている、紙幅9.33メートルを誇る世界最大級の洋紙です。ワイヤー幅10メートルの抄紙機で1秒間に30メートル、時速に換算すると108キロメートルという驚異的な速度で、これほど巨大な紙が生産されているといいます。

これだけの速さで製造されているだけに、実際の製造現場は、さぞかし迫力に満ちた光景なのでしょう。

展示を目にすると、紙はベルトコンベアのように横へ流れる姿を想像するかもしれません。しかし、9.33メートルもの幅がある巨大な紙が、実は滝のように縦方向へと流れ落ちながら形作られていくそうです。この展示の大きな見どころとなっています。

背景も額縁も黄金色に輝く見ごたえある作品

もう一つは、エントランスホールの壁に見られる、聖徳太子が描かれた巨大和紙

こちらはいくつかの和紙をつなげたのではなく、縦3.66メートル、横2.77メートルにもなる一枚の和紙なのです。1970年の大阪万博に展示するために製作されたもので、屋外に抄紙用具を組み立てて10人がかりで抄造された作品となっています。

実は「洋紙産業発祥の地」に位置している

JR王子駅からすぐの場所に位置する「洋紙発祥之地」記念碑

そして、当館がなぜ北区に位置しているかという点においても触れなければなりません。それは、紙の博物館が位置する王子は、日本における近代産業の出発点であり、洋紙発祥の地でもあるからなのです。

その発端は、「近代日本資本主義の父」とも言われた渋沢栄一であり、日本の近代化に向けて、1873(明治6)年に「抄紙(しょうし)会社※」をこの場所に設立したのです。
※現在の王子・日本製紙のルーツにあたる『日本初の本格的な洋紙メーカー』のこと。

PAPIER(パピール)は、ドイツ語で製紙工場を意味する「パピール・ファブリック」に由来しています

昔の名残りは、当館の1階にも見られます。

「PAPIER」と彫られた門扉は、明治9年から昭和20年代まで洋紙工場で使用されていたものであり、その隣には明治天皇が行幸されたことを記念する碑が見られます。明治天皇も訪れるくらい、日本にとっても重要な場所だったということでしょうか。

今は都会に位置していながらも飛鳥山公園ののどかな光景が広がる王子ではありますが、かつては洋紙製造工場が広がる雰囲気の異なった場所だったんでしょうね。当時はどのような様子だったのか、昔に戻って覗いてみたくなるものです。

紙はリサイクル効率に優れている

持続可能社会が叫ばれる昨今、紙は保存性やリサイクル効率が優れているゆえ、これからの社会に大きく活躍する素材でもあります。

紙に関するリサイクルについての説明が豊富

当館の展示でも紹介されているように、日本は紙のリサイクルが進んでいる国であり、なんと66%ほどが古紙(一度使った紙)由来となっています。紙は、水の中でバラバラにした繊維を網でこしてシートを作り乾かしたもの。

構造がきわめてシンプルなため再生がしやすく、さらに植物繊維を原料としていることから、自然に還りやすい、環境にやさしい素材でもあるのです。

製造工程でエネルギーまで作られている

さらに、紙を工場でつくる際のエネルギー源としては、製造過程で生じる「黒液」を、植物由来のバイオマスエネルギーとして活用しています。これにより、石炭や石油といった化石燃料の使用を抑えることが可能となっています。

このような仕組みから、紙の製造は工場の中でエネルギーを作ることができるように、自家発電率が他の産業に比べて高い素材となっています。工場から排出された二酸化炭素は、植林された木々が吸収しながら成長し、その木材が再び紙の原料として使われる。紙は、そういったリサイクルが確立された、環境にやさしい素材であることが分かります。

持続可能な社会に向けた紙の役割とは

紙はリサイクルに優れており環境にやさしい素材であることから、紙が色々な素材に使われるようになることは、これからの持続可能な社会に大切なことだと思います。

文房具店にも劣らない品揃え

そして、紙の博物館のミュージアムショップでは、紙封筒やレターセットなどのお馴染みの文具が見られはするものの、紙で作られた意外な商品も販売しているのです。

糊もハサミも使わずに組み立てられます

その一つが、「beak(ビーク)」という折り紙食器。

食器だけでなくスプーンとフォークまでもが付いており、折り紙のように組み立てられます。耐水、耐熱、耐油ペーパーを採用していることから、豚汁やラーメンなどの暖かい汁ものまで美味しくいただくことができるのです。

折り紙ということもあり、置いておいても邪魔にならず防災備蓄品としては極めて優れています。近年では2024年に発生した能登半島地震でも提供されるなど、今後も様々なところで活用されていくと思われます。

履き心地が気になります

さらには、紙から生まれた天然繊維素材の糸で作られた靴下までもが売られています。近年では、紙の繊維をナノサイズまで細かくしたセルロースナノファイバーも注目を集めており、その強度は鉄の5倍。世界でもこの研究は日本が進んでおり、今後この素材を使ってどのような製品が誕生するかが楽しみですね。

このように、紙は今までに使われなかった様々な商品の素材に使われ始めており、こうした取り組みを知るたびに、将来へと広がる様々な可能性に胸が躍ります。

持続可能な未来を考えるうえで、「紙」という素材に目を向けることは非常に重要です。その第一歩として、ぜひ一度、紙の博物館を訪れてみてはいかがでしょうか。

博物館に行ってみよう!

紙の博物館
住所:東京都北区王子1-1-3
営業時間:10:00~17:00(最終入館16:30)
休館日:開館日カレンダーをご覧ください。
入館料:一般 400円/小中高生 200円
公式HP:https://papermuseum.jp/ja/

丹治 俊樹

丹治 俊樹

博物館ライター

博物館マニアであり、「知の冒険」主宰者。本業であるフリーエンジニアのかたわら、博物館ライターとして、珍スポ/遊郭跡/博物館/昭和レトロなど2000スポット以上を取材。テレビ、ラジオ、雑誌などのメディアに出演するほか、書籍の出版、講演会の開催なども行う。二郎全店制覇。著書に『世にも奇妙な博物館 〜未知と出会う55スポット』などがある。 ブログ「知の冒険」:https://chinobouken.com/

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