「紙と石以外は絶滅する」──3000点のコレクションが問いかける、記録メディアの未来

未来をのぞける博物館シリーズの第13弾。今回は、東京都中央区にある「絶滅メディア博物館」を紹介します。

多くのビジネスパーソンが行き交う、東京のオフィス街・神田。この街の一角には、私たちがかつて日常的に使っていた懐かしいメディアが一堂に会する博物館があります。一般的に博物館は夕方に閉館する閉まることが多いものですが、当館は日によって「ナイトミュージアム」として、夜遅くまで夜まで開館しているのも大きな特徴です。

懐かしい思い出がよみがえる「絶滅メディア博物館」

ものすごい数のビデオカメラだけに、多くの方が圧倒されるはず

ここは、館長の川井拓也さんが運営する個人博物館。

館内にはたくさんのビデオカメラ、音楽プレイヤーやガラケーなど、約3000点ものコレクションが集まっており、そのうちの約1500点が所狭しと並べられています。

時代を彩ってきた、数々のビデオカメラ

展示内容としてはビデオカメラが最も充実しており、壁一面の棚に整然と並んでいます。その形や大きさは驚くほど多彩で、これまでにどれほど多くのモデルが誕生してきたのかと圧倒されます。子どもにとっては「こんな大きいカメラで撮ってたの?」と驚きの連続。親にとっては、当時憧れていた一台や、使っていた機種との思いがけない再会が待っています。

パネルに映る広末涼子の若さにも驚かされる

館内でも、特に多くの来館者が足を止めるのがこの階段エリアです。ここには電話機やガラケー、電卓、音楽プレイヤーなどが並び、どれも比較的最近まで使われていたものばかり。それだけに、多くの人の記憶や感情に深く訴えかける展示となっています。

子どもと大人では、同じ展示でも見え方や感じ方が大きく変わりそう

折りたたみ式や画面が横に回転するものなど、ガラケーひとつとっても、かつては実に個性豊かな機種が次々と誕生していました。スマホに乗り換える前、何度も機種変更をして様々なモデルを手にした人も多いはず。膨大な展示の中から自分だけの思い出の一台を探そうと、思わず夢中で見入ってしまう方も多いのではないでしょうか。

スタジオの控え室が博物館に大変身

今も貸しスタジオは様々な撮影で利用されている

絶滅メディア博物館は、川井さんが運営する貸しスタジオに併設されています。展示スペースはもともと出演者の控え室でしたが、趣味のカメラを並べていたところ、不要な機材を譲ってくれる人が現れ、少しずつ展示が充実していきました。

活動が注目を集める中、SNSで「絶滅したメディアを募集」と呼びかけたところ、コロナ禍による片付けブームも重なり、全国から寄贈品が殺到

こうして多くの人々の厚意が集まり、2022年1月に絶滅メディア博物館は正式に開館を迎えました。

約100年前からのメディアの変遷がまとめられている

ここは館長の川井さん個人が運営する博物館であり、ご本人がいらっしゃる時には、展示品や解説パネルを交えながら、メディアが歩んできた波乱万丈な歴史を分かりやすく語ってくれます。何度も通う常連客も多く、初めて訪れる人でもすぐに馴染めるような温かさがあります。こうしたアットホームな居心地の良さは、個人運営の施設ならではの嬉しいところです。

五感で体験するメディアの歴史

そして、当館の大きな魅力は、すべての展示品を実際に手に取れるという点にあります。博物館といえば、ガラスケースの中に収められた姿を想像しがちで、展示物に直接触れられるというイメージを持つ方は少ないかもしれません。

しかし、ただ眺めるだけでなく、自分の手で触れてみるからこそ、初めて気づかされることも数多くあるのです。

いろんなカメラを手に取りたくなるはずだ

現代では、スマートフォンひとつで手軽に写真や動画を撮影できます。しかし、かつてのビデオカメラは今よりずっと重く、金属の冷ややかな質感があり、ネジを巻いて動力を得るなど、シャッターを切るまでにも多くの手間が必要でした。

当時の大型機材は、肩に担がなければ撮影すらままなりませんでした。今、私たちが当たり前のように使っているメディアが、昔はこれほど苦労して扱われていたこと。そして、数々の技術革新を経て今の便利な機器が誕生した事実に、改めてその進化の凄さを実感させられます。

かつてガラケーを使っていたころの記憶がよみがえる

昔のガラケーを実際に手に取ってみると、パカパカと開閉する動作やボタンを押す独特の感触が鮮やかに蘇ります。実物に触れることで、当時使っていた頃の記憶が呼び起こされ、こうした懐かしいメディアを通じて、かつての様々な思い出に浸る方もきっと多いはずです。

「便利」の原点をたどる旅

紙の保存性は極めて高く、奈良の正倉院には、約1300年間保存されたままの和紙が残されている

当館の入り口には、「紙と石以外のメディアはすべて絶滅する」というコンセプトが掲げられています。これまで多様な情報媒体が生まれては消えていきましたが、紙と石だけは1000年以上の時を超えてもなお、現役の記録手段として生き残り続けています。

現代の私たちはスマートフォンやパソコン、タブレットなどを日常的に使い、それが当然のことだと感じています。しかし近い未来、それらもやがて姿を消し、今は想像もできないような全く新しいメディアが、当たり前のように普及しているのかもしれません

「スマホの次はどんな道具が出てくるかな?」
「100年後の人にも、今の写真を見てもらうにはどうすればいい?」
過去から現代のメディアの遍歴を見ていく中で、この先どのような新しいメディアが誕生するのか、未来の姿に思いを馳せてみるのも面白いのではないでしょうか。

すべて撮影がOKなだけに、あらゆる展示をカメラに収めたくなる

また、当館の展示品はすべて、実際に手に取れるだけでなく撮影も自由となっています。その理由は、来館者の手を通じて情報をネットワーク上に分散し、保存することを目指しているからなのです。

展示やメディアの姿を後世に語り継ぐため、訪れた方がブログやSNSで発信することで、記録はより確実に世の中へ刻まれていきます。一見すると産業廃棄物のような古い機材でも、誰かの記憶に触れてコンテンツとして再生されることも、寄贈されたカメラが持つ価値と言えるかもしれません。

当館に展示されている様々なメディアを通すことで、未来のことを考えるひとつのきっかけにもなるという大変貴重な博物館。博物館は年中無休を基本としていますが、撮影スタジオの関係で閉館する場合もあります。訪問の際は、事前に公式ホームページで開館状況を確認しておくのがおすすめです。

博物館に行ってみよう!

絶滅メディア博物館
住所:101-0047 東京都千代田区内神田2-3-6 楓(かえで)ビル1階
営業時間:10:00~17:00(最終入館16:30)
休館日:開館日カレンダーをご覧ください。
入館料:一般 2,000円/学生 1,000円/こども無料
公式HP:https://extinct-media-museum.blog.jp/

未来をのぞくための
「見方」を手に入れる

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丹治 俊樹

丹治 俊樹

博物館ライター

博物館マニアであり、「知の冒険」主宰者。本業であるフリーエンジニアのかたわら、博物館ライターとして、珍スポ/遊郭跡/博物館/昭和レトロなど2000スポット以上を取材。テレビ、ラジオ、雑誌などのメディアに出演するほか、書籍の出版、講演会の開催なども行う。二郎全店制覇。著書に『世にも奇妙な博物館 〜未知と出会う55スポット』などがある。 ブログ「知の冒険」:https://chinobouken.com/

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