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「田沢湖クニマス未来館」未来をのぞける博物館 #04

未来をのぞける博物館シリーズの第4弾。今回は、秋田県にある「田沢湖クニマス未来館」を紹介します。

昨今ではSDGsが叫ばれているゆえ、環境問題が大きなテーマとなっています。戦後の高度経済成長などで日本の経済は成長していきはしたものの、その裏では様々な環境汚染や自然破壊が発生。しかし、現代では環境を保護するのみならず、環境を取り戻す活動が全国で行われています。

環境を取り戻す活動は、日本一深い湖と知られる田沢湖でも行われており、湖畔に佇む「田沢湖クニマス未来館」でその実情を知ることができるのです。

かつて田沢湖にのみ生息していたクニマス

田沢湖クニマス未来館
すぐ目の前が湖という立地に佇む「田沢湖クニマス未来館」

田沢湖といえば、美貌を永遠のものにと望み、田沢湖に身を投じて龍と化した「辰子伝説」が有名です。その南岸に佇む当施設は、木の温もりを感じられるかのような外観。

田沢湖クニマス未来館

館内では田沢湖の成り立ちやかつての漁業に関する歴史、さらには淡水魚であるクニマスの過去、現在、そして未来について知ることができます。

田沢湖クニマス未来館
館内の水槽では、山梨県で人工増殖されたクニマスが泳ぐ

当館は水族館の要素も兼ね備えており、館内の水槽にはウグイ、コイ、ヒメマス、そしてクニマスが泳いでいます。まさに、水族館の要素も兼ね備えた博物館
とはいえ、ここで泳いでいるクニマスは山梨県で人工増殖されたものなのです。かつて、田沢湖にのみ生息していたクニマスですが、今は田沢湖でその姿を見ることはできません。
その背景には、一度変えてしまった環境はそうそう元には戻せない。そうした教訓がうかがい知れるのです。

強酸性の温泉によりクニマスが絶滅

田沢湖クニマス未来館
漁業には、杉材をくり抜いて作られた丸木舟が使われていた

かつて、田沢湖には20種類以上の魚が生息していたこともあり、漁業も行なわれていました。その中でも、「クニマス一匹、米一升」といわれたように、クニマスは大変貴重で高価な魚だったのです。

田沢湖クニマス未来館
再び、クニマスが田沢湖を泳ぐ姿を見てみたいものだ

ところが、1930年代の歴史的な大凶作をきっかけに、付近を流れる玉川の水は国策として農業用水に使われるほか、同時に田沢湖をダムにして電源開発にも使われることになりました。
しかし、玉川には日本一酸性度の高い温泉とも言われる玉川温泉が流れ込むことで酸性度が非常に高い。その解決策として玉川の水は田沢湖に投入して酸度を薄める方法がとられ、それにより田沢湖は急激に酸性化してしまったのです。
それが原因でクニマスは死滅してしまい、田沢湖から姿を消すことになったのです。

幻のクニマスを求め捜索活動が始まった

田沢湖にのみ生息していたクニマス。
もうその姿を見ることはできないと思われていたものの、何とクニマスは別の湖で奇跡的に発見されたのです。
この発見のきっかけは、最後のクニマス漁師だった三浦久兵衛氏が遺されていたクニマス資料を発見したことでした。その資料には「明治後期から始まったクニマスの人工増殖の取り組みによる本栖湖や西湖への譲渡の記録」と書かれており、クニマスは絶滅する前に別の湖に放流された記録が残されていたのです。

田沢湖クニマス未来館
クニマス探しには、懸賞金がかかるほど気合が入っていた
田沢湖クニマス未来館
クニマス探しには、懸賞金がかかるほど気合が入っていた

この資料をきっかけに、クニマス探しが始まりました。懸賞金をかけたポスターを作成し、二度と見られないと思われていた幻の魚を見つけるべくキャンペーンを展開していきました。

田沢湖クニマス未来館
館内でも展示されているクニマス発見の新聞記事

そして、絶滅したと思われてから70年後の2010年、クニマスは奇跡的に発見されました。その場所は、山梨県の西湖。地球上から姿を消したと思われていたクニマスは、遠く離れた山梨県で生きていたのです。

田沢湖クニマス未来館
メディアでもおなじみのさかなクン。こんな功績があったとは。

そして、その立役者はさかなクンでした。
長年にわたクニマスを研究している旧知の仲である教授から「クニマスを描いてほしい」と頼まれたさかなクン。しかし、クニマスは現存しておらず、ホルマリン漬けの標本ではヒレやウロコがわかりにくい。
そこで、特徴が似ているヒメマスを参考にすればと思い、知り合いの漁師から北海道や富士五湖のヒメマスを送ってもらったそうです。
そして富士五湖から送られたヒメマスを見てみると、体の色や産卵時期の特徴からクニマスと判明。これが、世紀の大発見となったのです。

環境は一度変わるとそうそう戻らない

田沢湖クニマス未来館

クニマスが生きていたとなると、再び田沢湖に返したいという声が大きくなり、将来的にクニマスを田沢湖に戻すことを前提とした諸活動を計画し、2015年から県と市の協議を経て「クニマス里帰りプロジェクト」を発足。

そのプロジェクトの一環で、田沢湖クニマス未来館が誕生しました。

とはいえ、クニマスを田沢湖に戻すためには、酸性化が進んでしまった田沢湖の水を中和して酸度を元に戻すことが必要です。

平成元年からは、酸性化した湖を元の環境に戻すべく、石灰石による中和反応によって水質改善が行われており、1997年の時点では、田沢湖の水質はコイやウグイが生息できる状態にまでは回復してはいるものの、まだクニマスが泳ぐまでには至っておらず、その見通しは立っていません。

一度変えてしまった自然は、そうそう元に戻すことはできないことを、この未来館から知ることができ出来ます。そう思うと、これからの社会を生きる上では、自然とどのようにして生きていくべきか、この施設から学べることも多いのではないでしょうか。

博物館に行ってみよう!

田沢湖クニマス未来館

  • 住所:秋田県仙北市田沢湖潟字ヨテコ沢4
  • 休館日:毎週火曜日(祝日の場合は翌日)
    ※月曜日が祝日の場合は開館し、その翌日が休館となります。
  • 入場料:大人500円(高校生以上)/小人300円(6歳未満無料)
  • 公式HP:https://edu.akita-fun.jp/trip/trip-408/
丹治 俊樹

丹治 俊樹

博物館ライター

博物館マニアであり、「知の冒険」主宰者。本業であるフリーエンジニアのかたわら、博物館ライターとして、珍スポ/遊郭跡/博物館/昭和レトロなど2000スポット以上を取材。テレビ、ラジオ、雑誌などのメディアに出演するほか、書籍の出版、講演会の開催なども行う。二郎全店制覇。著書に『世にも奇妙な博物館 〜未知と出会う55スポット』などがある。 ブログ「知の冒険」:https://chinobouken.com/

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