未来をのぞける博物館シリーズの第七弾。今回は、福井県にある「福井県年縞博物館(ふくいけんねんこうはくぶつかん)」を紹介します。
この“年縞(ねんこう)”という言葉はあまり聞きなれないかもしれません。それもそのはずで、広辞苑には2018年に初めて掲載されたということもあり、まだ新しい言葉なのです。その年縞とはどういう意味なのかというと、「長い年月の間、海洋、湖沼、河口などの底に堆積した土などの層が描く特徴的な縞模様(しまもよう)の湖底堆積物(こていたいせきぶつ)」のこと。
昔の堆積物(たいせきぶつ)がそのままの状態で保存されているゆえ、これから先の未来、はるか昔のできごとに大きな発見を見出すかもしれない年縞。その可能性について、博物館を通して紹介したいと思います。
奇跡の湖が生み出した7万年の記憶
そんな年縞に関する博物館が、福井県にあるのです。2018年に開館し、45メートルもの長さがある年縞を展示するために、建物も横に長い造りとなっているのが印象的です。
とはいえ、なぜ福井県に年縞の博物館があるのかが気になる点だと思います。
それは、博物館の北側に位置する水月湖の湖底に年縞が発見されたことに由来します。この湖の湖底では「直接流れ込む河川がない」「湖底に生物が生息していない」という年縞ができる条件に加え、湖底への堆積と断層活動による湖の沈降がどちらも発生し続けることで「年縞を生み出すために必要な深さを保ち続けている」という奇跡が重なったことで縞模様の湖底堆積物が作り出されたのです。
はるか昔から湖底に堆積物が溜まり続け、その期間は実に7万年。そして、その年縞は長さにすると45メートルにもなるのです。
湖から300メートルほどの場所に位置する鳥浜貝塚における研究の一環として調査された水月湖。その際にたまたま縞模様の堆積物が発見され、1991年に湖底堆積物の採取が初めて行われたことが、日本における本格的な年縞研究の幕開けとなりました。
以後数回にわたり調査が行われ、年縞の価値を広くアピールし、研究、教育、観光の拠点となることを目的に福井県年縞博物館は開館したのです。
45メートルにわたる一直線の展示
7万年の歴史がこの展示に凝縮されている
館内の2階には、45メートルに及ぶ年縞が一直線に展示されており、その光景は実に圧巻。採取した標本は、樹脂で固め手作業で薄くし、100枚分のガラスを横にした形で展示。
7万年もの気の遠くなるような年月の記録がこうした形で残されているとは、その凄さに驚かずにはいられません。
7万年という歴史からすると、数百年という年月は実に短く感じます。近年の位置から数歩歩くだけで豊臣秀吉が生きていた時代にタイムスリップすることができますし、この展示を見ていると人間の一生である100年ほどが、ほんの一瞬にも思えてきます。
縞模様から過去を解き明かす
では、この年縞からどのようなことがわかるのでしょうか。
まず、この堆積物は、当時噴火した際に降り注いだ火山灰、当時植生していた植物の花粉、そのほかプランクトンの死骸、植物の葉、木の枝などが溜まったもの。そして、さまざまな箇所に縞模様が見えるのですが、黒く見えるのが夏場であり、白く明るく見えるのが冬場であり、過去になるにつれ、堆積した重さのためにこの縞模様の間隔は狭くなっていきます。
気温が高いと生き物も活発だったため縞模様がはっきりしており、気温が低い時代は縞模様がはっきりとは見えないことがわかります。
最も寒かった頃にはシラカバ、モミ、コメツガなどの針葉樹の花粉が見られ、暖かい場所に植生するヤシの花粉が見られた時代は温暖だったことが伺えます。このように、当時の花粉からどのような植物が育っていたのか、それゆえ当時の気候状態などまでが推測できるというわけです。
そして、この1年分の縞模様が毎年欠かすことなく記録されていることから、縞の数を数えればいつの時代のものなのか、ほぼ特定できるというわけです。
続いて火山灰について見てみると、この年縞では鳥取の大山、富士山、姶良カルデラの噴火による火山灰が確認されています。
これらの噴火時期についても、大まかにしか判明していなかったものの、年縞によってより正確な時期が判明したのです。
以上のように、標本からさまざまな事実がわかってくるわけですが、標本をじっくり見てほしいという思いから年縞には解説が設けられていません。ただし、スタッフが常駐しておりますので、気になったことがあれば色々聞いてみましょう。
年縞は多くの可能性を秘めている
年縞の展示の反対側では、年縞研究の歩みなどに関する展示が見られます。
水月湖以外の湖に関する年縞の展示も見られ、こちらのパネルからもわかるように、年縞は水月湖以外にも国内のいくつかの湖で見られるようです。
水月湖以外の6箇所で見つかっているようですが、まだその全貌は未知数ゆえ、これからも新たな場所で発見されるかもしれません。
こちらの展示では、年代を操作することで当時見られたであろうその時代の風景がスクリーンに映し出されます。湖周辺では、7万年の間にどのような環境の変化があったのか、その変遷が実にわかりやすい展示となっております。
以上のように、水月湖の年縞は、さまざまな過去の歴史がわかることから「世界標準のものさし」とも呼ばれるようになりました。
農林業をはじめとした人間活動が変化することで、湖周辺の植物の種類も変化していくことから、過去の人間活動が明らかになってくるかもしれません。さらには、これまで以上に詳しい古気候の復元や歴史の新事実が解明されるかもしれません。
これから先の未来、年縞からどのような発見が生まれるのか、楽しみでなりません。
博物館に行ってみよう!
福井県年縞博物館
住所:福井県三方上中郡若狭町鳥浜122-12-1縄文ロマンパーク内(若狭三方縄文博物館と隣接)
営業時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:毎週火曜、年末年始(12/29~1/2)
入館料:一般500円、小中高生200円
公式HP:https://varve-museum.pref.fukui.lg.jp/