都市計画マスタープランとは?
都市計画マスタープランとは、長期的な視点から都市の将来像を描き、その実現に向けた都市づくりの大きな方向性を示すものです。
国土交通省は、都市計画のマスタープランについて、
- 都道府県が策定する「都市計画区域マスタープラン」
- 市町村が策定する「市町村マスタープラン」
という2つの種類を示しています。
特に市町村マスタープランは、正式には**「市町村の都市計画に関する基本的な方針」**と呼ばれ、その市町村が目指す都市の姿や、土地利用、交通、公共施設、環境などについて、都市計画上の方向性を示します。
マスタープラン自体が、個々の土地利用を直接規制するわけではありません。
その後の具体的な都市計画を考えるための指針になるものです。
30秒でわかる|マスタープラン・将来像・ビジョン
似た言葉が多いので、まず整理してみます。
| 言葉 | この記事での捉え方 |
| 都市計画マスタープラン | 長期的な都市の将来像と、都市計画の基本的な方針を示す計画 |
| 将来像 | その地域が将来「どんな状態を目指すか」を表した姿 |
| ビジョン | 将来像や方向性を、人々が共有しやすい形で示したもの |
| 未来ビジョン | 官民連携などで、エリアの将来像と実現の方向を共有するために使われる名称の一つ |
これらは厳密にすべて同じものではありません。
ただ、共通するのは、現在の課題だけを見るのではなく、将来どんな地域を目指すのかを先に言葉や図で共有するという役割です。
なぜ都市計画に「将来像」が必要なの?
道路、公園、住宅、商業地、公共交通。まちの形は、一度つくられると短期間では変わりません。
そのため都市計画は、現在の課題だけではなく、10年、20年、その先の社会を見ながら考える必要があります。
人口構造が変わったら。
働く場所が変わったら。
自動運転が一般化したら。
猛暑や豪雨が増えたら。
地域に必要とされる公共空間が変わったら。
未来を正確に当てることはできません。
だからこそ、都市計画マスタープランでは、長期的な視点から目指す都市の将来像を明確にし、その実現への大きな道筋を示すことが重要になります。
国土交通省も、マスタープランには長期的展望に立ち、都市づくりのあり方をわかりやすく具体的に示す役割があるとしています。
データだけではなく、「どんなまちにしたい?」を考える

求められる「データドリブン」から「ビジョンドリブン」なまちづくりへの変革
まちづくりでは、人口、交通量、土地利用、経済、災害リスクなど、さまざまなデータが重要です。
未来について考えるからといって、データを使わなくてよいわけではありません。
一方、データから将来を推計するだけでは、「私たちは、どんなまちを望むのか?」までは自動的に決まりません。
人口が減るから、何を集約するのか。
技術が進むから、どんな暮らしをつくりたいのか。
公共空間を増やすなら、そこで誰にどう過ごしてほしいのか。
そこには価値判断が必要です。
だから、都市の未来を考えるときには、現在地を知るためのデータと、行き先を考えるための将来像の両方が必要になります。
市町村マスタープランと市民参加
市町村マスタープランの特徴の一つが、住民に近い自治体が策定する計画だということです。
国土交通省の都市計画運用指針でも、市町村マスタープランについて、住民の意見を反映し、具体性のある将来ビジョンを確立することが望ましいとされています。
なぜ住民参加が重要なのでしょうか。
まちの未来は、行政だけの未来ではないからです。
同じ地域でも、
- 子育てする人
- 高齢者
- 学生
- 商店を営む人
- 企業
- 観光客
- 最近移住してきた人
では、望む未来も、現在感じている課題も違います。
異なる立場の人が未来について話すと、
「駅前をもっと便利にしたい」
「便利さより、歩きたくなる場所がほしい」
「観光客を増やしたい」
「暮らす人の日常を守りたい」
といった違いが見えてきます。
この違いを消して一つの答えにするだけではなく、何を大切にしているのかを知ること自体が、将来像を考える材料になります。

事例|渋谷区では、市民が考えた未来がマスタープランに入った
この現行記事を最初に書いた理由の一つが、渋谷区のまちづくりマスタープランです。
令和元年に渋谷区が発行したまちづくりマスタープランにおいては、「渋谷民が考える未来」ということで、マスタープランの設計前に渋谷の未来を描くワークショップが行われました。
こちらのNoteに詳しく当日の様子が描かれています。
シブヤまちづくり散歩とは 未来のシブヤはどんな街? 渋谷区では、様々な社会状況の変化や、技術革新を踏まえた上で、「渋谷区基本構想」をまちづくりの視点から実現化する「渋谷区まちづくりマスタープラン」(以下「渋谷区まちマスプラン」)の策定が進んでいます。2017年9月に始まった「渋谷区まちマスプラン」をはじめ、シブヤで行われる様々なまちづくりの取り組みを追いかけます。 「ちがいを ちからに 変える街」をみんなで考える 何かしらの理由で渋谷という街に関心があって「シブヤ散歩新聞」を訪れたあなたならば、「ちがいを ちからに 変える街」というフレーズを、どこかで目や耳にしたことがあるで
このワークショップで渋谷民が考えたアイデアは、マスタープラン1章で「渋谷民が考える未来」としてまとめらえれています。
そして3章では過去やポテンシャルを分析した上で、「渋谷区が目指す将来像とまちづくりのアプローチ」としてまとめられています。
私も渋谷区のまちづくりマスタープランの制作に関わらせていただきましたが、当時は行政の中長期の計画資料に「一般市民が考えた未来のアイデア」が掲載されることに非常に刺激を覚えました。
まさに未来を考える力やFutures Literacyが、専門家の枠を超えて必要になっていく時代だと強く感じた有意義なプロジェクトでした。
「未来ビジョン」という考え方も広がっている
都市の将来像を共有する方法は、法定の都市計画マスタープランだけではありません。
国土交通省の「官民連携まちなか再生事業」では、自治体、企業、地域の関係者などが参加するエリアプラットフォームをつくり、エリアの将来像を明確にした「未来ビジョン」の策定を支援しています。
官民の様々な人材が集積するエリアプラットフォームの構築やエリアの将来像を明確にした未来ビジョンの策定、ビジョンを実現するための自立・自走型システムの構築に向けた取組を総合的に支援し、多様な人材の集積や投資を惹きつける都市の魅力・国際競争力の強化を図る。
ー国土交通省資料 「官民連携まちなか再生事業について」より
ここでも重要なのは、「行政が将来計画をつくって発表する」だけではなく、
官民のさまざまな人が集まり、地域の将来像と、その実現に向けた取り組みを共有する
という考え方です。
法定計画と未来ビジョンは同じ制度ではありません。
ただ、どちらにも、
「未来の地域像を先に考え、それを現在の取り組みへつなげる」
という共通点を見ることができます。
でも、「将来像を一つ決める」だけでいい?
ここからは、Futures Literacy Journalとしてもう一段考えてみます。
マスタープランには、目指す将来像を示す役割があります。
一方、未来はまだ存在していません。
将来像をつくる過程で、「10年後はこうなるはずだ」という一つの前提だけに依存すると、その想定から外れた変化を見落とすことがあります。
そこで、最終的なビジョンを決める前に、複数の未来を考えてみるという方法があります。
たとえば、
- 車を所有する人が大幅に減った未来
- 猛暑で昼間に歩く人が減った未来
- 外国から移り住む人が増えた未来
- AIによって働く場所の意味が変わった未来
- 地域の高齢者が今より活躍している未来
を一度想像してみる。
どれが正解かを当てるためではありません。
違う未来を考えることで、
「いまの計画は、何を当たり前だと思っている?」
「誰の暮らしが想定されていない?」
「どの未来になっても大切にしたいものは何?」
と、現在の計画を見直すことができます。
Futures Literacyで、まちの将来像を考える5つの視点
これは都市計画制度上の正式な策定手順ではなく、未来について対話するためにJournal/未来予報の視点から整理した補助的な考え方です。
1|現在を観測する
人口、交通、土地利用、産業などのデータだけでなく、地域で起きている小さな変化や違和感も見ます。
2|兆しから、複数の未来を考える
「もし、この変化が10年続いたら?」と考え、現在の延長線上だけではない未来も想像します。
3|異なる立場から未来を見る
住民、行政、企業、子ども、高齢者、訪れる人など、立場を変えて未来の暮らしを考えます。
4|自分たちなりの未来像〈HOPE〉を探す
複数の未来を見た上で、「どんな状態を、自分たちは望むのか?」を言葉にします。
全員がまったく同じ未来像を持つ必要はありません。何を大切にしたいか、どこに違いがあるかを共有することも重要です。
5|未来から現在へ戻る
最後に、「では、いま何を変える?」「何を守る?」「何を試してみる?」と現在の行動へ戻ります。
未来について話すことを、計画や行動につなげます。
まとめ|マスタープランは「未来を決める書類」ではなく、未来を共有する入口にもなる
都市計画マスタープランは、長期的な都市の将来像と、都市計画の大きな方向性を示す重要な計画です。
そこでは、データや現状分析だけでなく、「この地域は将来、どんな姿を目指すのか?」を考える必要があります。
そして、将来像を考える主体も、行政や専門家だけとは限りません。
住民、企業、地域で活動する人など、異なる立場の人が未来を語ることで、それまで見えていなかった価値観や選択肢が見えてきます。
Futures Literacyの視点を加えるなら、
さらに、ひとつの未来をすぐに決める前に、異なる未来も考えてみる。
その上で、「私たちは、どんな未来を選びたい?」と話してみる。
未来について考えることは、計画の答えを予言することではありません。
現在の前提に気づき、まちの選択肢を増やすことでもあります。
地域の未来を、実際に話してみる
未来予報では、兆しや未来像を材料に、企業・地域・チームが未来について対話する場づくりも行っています。


