未来は「予測=当てるもの」ではなく、「いまを動かす道具」である。
こんな想いから、Futures Literacy Journalでも、世界中から小さな兆しを集め、幅広い方々が自分の未来の選択肢を増やすきっかけになる視点をお届けしています。
今回の「世界各国の実践から考える、未来のまちを感じる3つの兆し」シリーズでは、3つのAIを活用したインパクトスタートアップの取り組みを手がかりに、起こるかもしれない未来のまちのワンシーンを描く試みをしてみます。
直近の課題に目を当てるだけにとどまらず、社会を変えようとする3社を手がかりに、「こうなっていてほしい」日常のワンシーンを先に描いていきましょう。
あなたが見てみたい未来の光景を、ここから一緒に想像してみてください。
①Support → Quest | 支援は“受けるもの”から“達成しあうもの”へ
シナリオ#01 : 未来の支援ネットワークのかたち
放課後の養護支援センター。高3の球太くんはディスプレイに並ぶ「次の一手」を指でなぞる。身分証の更新、バイトの税手続き、来月の面接。進捗に合わせてメンターと担当職員の小さなグループが自動で立ち上がり、球太くんの“できた”が小さな報酬に変わっていく。ひとりの若者に複数の大人が同じ画面で伴走することで、たらい回しにしない。周囲の支援者が同じ方向で目標に向かって本人と伴走ができるようになった。

Launch Ahead は、2023年にアメリカで創業した里親・児童養護を離れる若者の自立移行を、AIとゲーミフィケーションで支えるスタートアップ。若者と“ドリームチーム”(メンター/職員/家族など)を結び、目標設計・進捗管理・動機づけを一体化しようという思想が核にあります。
日本でも児童養護に関わらず「たらい回し」されることは少なくありません。たらい回しにされると、子どもでなくても、何のゴールに向かっているのかさえわからない、誰も味方がいない…そう思って非常に気分が悪くなります。
Launch Aheadのように支援が必要な人を包括的に支援をするためのダッシュボードと、支援者全員でクエストのように取り組めるゲーミフィケーションを横串に通せば、もっと効果的かつ楽しく支援ができ、様々な支援の場でドロップアウトを防げるケースも多くなりそうです。
データの可視化や通知、マッチングや解釈支援、そして何より人と人とのコミュニケーションにAIが入っていくことにより、使いやすいダッシュボードが実現できるようになりそうですし、幅広い方々がこの考え方を仕事やプライベートで活用するようになってくでしょう。何より、AIが主役ではなく、関わる人の意思を強化していくように設計されているところに魅力を感じますね。
②Student→Agent | ケアは“専門家の独壇場”から“学び合いの公共”へ

シナリオ#02 : 現役学生が医療・介護の現場で活躍する未来
退院10日目の朝、健志さんのスマホに地元の看護学生からビデオ通話が入る。「昨夜は眠れましたか?」AIが健志さんの語りを要約し、薬価や副作用の不安を自動抽出。
学生はかかりつけ病院の薬剤師へ橋渡しする。もちろんAIによって内容は編集される。簡潔だが温かみのある文章だ。少子高齢化にともない、病院は重症対応へ集中しつつ、日常の不安は学生が起用された“学びの輪”が支える構図が広がっていく。彼らは学生でありながらすでに立派な仕事人でもあるのです。
Grapefruit Health は、2022年アメリカで創業した、臨床系の学生を遠隔ケアの戦力に変換する“人×AI”のサービス。患者の背景や言語に近い学生をマッチングしてオンボーディングを行い、就労させます。就労後は服薬確認、退院後フォロー、孤立対策などを継続的に担ってもらうことで、医療機関は不足しがちな手を補い、学生は実地の学びを得ることができる、未来の働き方をつくるスタートアップです。
AIが双方の不安の要点を拾い、次の対話の糸口を提案してくれますが、最終判断や人材育成の部分はしっかり人側に残しているという意思を感じさせます。
③Some-ways → All-ways | 手話通訳を“どこでも・誰でも”オンにできる未来
シナリオ#03 : タップで手話通訳が自動生成される未来
区役所の窓口、病院の受付、商店のレジ、オンライン授業。そして個人のスマホにさえも、どこでも誰でも「手話をオン」できるようになった。スマホをかざしたり、喋ったりして翻訳できるようになったのと同じように、その場で手話アバターが表示される。
学校や地方行政、ショッピングセンターなど大規模な場所ではもちろん、小さな店舗や個人のスマホでも同じ操作で使える。利用後には「今日のフレーズ」へのリンクが出て、当事者だけでなく周囲の人も手話に触れる機会が増えた。手話は“特別対応”ではなく、最初から誰でも起動できる標準の選択肢になったのだ。

CODAは、音声/文章をリアルタイムで手話に翻訳するAIアバターを提供する2023年設立のイスラエルのスタートアップです。ビデオ会議、授業動画、メディア配信、店頭端末などに組み込み、手話アクセスを“どこでも・誰でも・すぐに”可能にします。用語や地名の事前登録、速度や表現の調整ができ、現場ごとに見やすさを整えやすくすることができます。
AIが変換を担いつつ、重要場面の監修や表現の最終確認は人が担う——将来的には自分らしさというところも追加できるかもしれませんね。手話通訳者がアプリに置き換わるのではなく、多くの人が手話に対して興味を持つ事で、より手話通訳者の価値や出番が高まるように、誰もが使えるようになる“手話への入り口の常設化”に期待が集まります。
AIがインパクトを広げる補助線となっていく
今回の3つの兆し——Support→Quest(Launch Ahead)、Student→Agent(Grapefruit Health)、Some-ways→All-ways(CODA)——は、AIが主役になるのではなく、意思・関係・接面の配分を整える役割としてAIが働く可能性を示しています。
3つの兆しに通底するのは、AIが「人の手間を奪う道具」ではなく、それぞれの専門家の力を増強したり、裾野を広げたりする「補助線」になる可能性です。自律は孤立ではなく、ケアは支配ではなく、専門家だけに任せるのでもない。AIが暮らしに紐づくポイントは、①誰の意思を太くするか、②誰と誰を結び直すか、③どの裾野を広げるか——この三つの設計に宿っていくでしょう。
そうすることで、未来の街はより多様で、優しく、ひとりひとりが当事者意識=シチズンシップを持った街へと成長を遂げていくのだと信じています。
日本のインパクトスタートアップも SXSW 2026 Pitch に応募しよう
TwitterやSiriなどを世界に広げるきっかけとなった世界最大級のクリエイティブ・ビジネス・カンファレンス&フェスティバルのSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)では、SXSW Pitchというスタートアップの登竜門のイベントがあります。ここ数年は、今回ご紹介した3社のようなテクノロジーを活用したインパクトスタートアップにとどまらず、社会的なコミュニティ運動までがファイナリストに選ばれ、世界中にその名を広げるようになりました。
そんなSXSW Pitchはただいま挑戦者を募集中!今年は航空会社のZIPAIRがファイナリストに選ばれた日本のスタートアップを支援するプログラムも実施中です。
ぜひ、あなたのインパクトを広げる物語を、日本からオースティンへ!
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「SXSW公式コンペに挑む日本の挑戦者たちへ」世界を変えるピッチはここから始まる。