「未来の妄想力」が、まちの衰退を止める。読売広告社が仕掛ける、シビックプライド起点のまちづくり

まちづくりのYOMIKO」を掲げ、都市と生活者の未来をプロデュースする読売広告社(以下YOMIKO)。まちづくりプロデュースルームの小林さんは、住民の愛着や誇りを原動力にする「シビックプライド※」の実装と、あるべき未来から逆算する「バックキャスティング」のまちづくりを提案しています。

VISIONGRAPH、株式会社TNCとの三社共同で行った「解放プロジェクト」や、組織全体の未来思考を醸成するワークショップの舞台裏について、小林さんとプロジェクトに伴走するVISIONGRAPHの高橋のお二人に話を聞きました。

シビックプライド(Civic Pride)とは…その都市に対する誇りや愛着のことで、都市をより良い場所にするために自分自身が関わっているという当事者意識に基づく自負心といえます。

写真左:株式会社読売広告社 コミュニティクリエイションビジネス局 まちづくりプロデュースルーム ルーム長 アーバンストラテジスト 小林 亜也子さん
写真右:VISIONGRAPH Inc.  リサーチャー 高橋 功樹

普段からリサーチャーとして、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)に集まるような面白いアイデアやテクノロジーに触れていますが、それらを実際の事業分野にどのように活用できるのか、YOMIKOさんの得意とする「まちづくり」を例にお伺いしてみたいと思います。

――小林さんの担当業務について教えてください。

小林さん:
2025年にまちづくりプロデュースルームが新設されました。広告会社がまちづくりを手がけることは珍しいですが、私たちYOMIKOはまちをフィールドにして、多様なステークホルダーをつなげて、社会課題を解決するコミュニティクリエイションを推進しています。これまで培ってきたシビックプライド領域のノウハウを、まちづくりプロデュースに実装していくことが、私たちの役割です。

シビックプライドとは「まちへの愛着や誇り」のことで、現在では行政を中心に広く認知されつつあります。私たちは早くからこの領域に注目してきました。YOMIKOとしては、2005年に研究会を立ち上げ、2008年に最初の書籍を出版し、現在は3冊目を執筆中です。

そのほかに、「CIVIC PRIDEポータル」の運営や、10万人以上の都市を対象にしたオリジナルの評価軸での「CIVIC PRIDEランキング」の発表も行っています。さらに、自治体・市区町村などの「シビックプライド条例」やシビックプライドを活かした自治体の方針策定のサポートも手掛けています。

高橋:
そのシビックプライドを、どのようにまちづくりに生かしていくのでしょうか?

小林さん:
社会課題として人口減少が見込まれる中で、私たちが目指すのは、住民一人ひとりの愛着や誇り——つまり「シビックプライド」が源泉となる、衰退しないまちづくりです。衰退しないまちづくりとは、住民の愛着や誇りが高まることで多様な人が集まり、多彩なものが交わること。その結果として地域の活動量が高まり、人口が減少しても、まちは活気に満ちた状態を維持できるはず。

これまで研究活動で培ってきたシビックプライドの概念を、単なる理想で終わらせるのではなく、具体的な仕組みとして社会にインストールしていく。それが、私たち「まちづくりプロデュースルーム」の役割だと考えています。

高橋:
どのようなプロジェクトが進行しているのでしょうか?

小林さん:
デベロッパーのクライアントと、2030年代に完成予定のレジデンス開発における未来のニーズを見据えた商品企画をしています。他には、社会実験を通じて2040年代の「パブリックライフ」や「人中心のまちづくり」をプランニングするといった、長期的な視点でのプロジェクトにも携わっています。

また、私たちは「アーバンストラテジスト」という肩書きを名乗っています。アーバンストラテジストの定義は、空間や場、コミュニティなど都市の多様なリソースを活用しながら、社会や企業が抱える課題を解決する戦略を考え、実行するプロフェッショナルという意味合いです。

この肩書きは、グローバルで活躍する都市デザイン会社や、建築家、インテリアデザイナーとの協業ワークがきっかけとなっています。私たちのミッションは、地域の課題や資産を見つけ出し、未来への北極星となる道筋を描くことだと考えています。

高橋:
小林さんたちが探求されているテーマは、私たちVISIONGRAPHが「フューチャーリスト」として行っている未来像の発信と非常に親和性が高いです。まちづくりは、10~20年、あるいは100年後の暮らしを想像する既存の延長線上にはない発想が必要ですよね。

「既存の延長線上にはない発想が必要」と語る高橋。

3社の知見を融合し、まちづくりの未来を実装する

――VISIONGRAPHを知ったきっかけを教えてください。

小林さん:
私たちは生活者・消費者の変化に関するレポートを発行しています。そのリサーチの中で、VISIONGRAPHの「翌年予報」のことを知り、レポートをダウンロードしました。その後、高橋さんから連絡をいただいたことがきっかけになりました。

――共同で取り組んだ「解放プロジェクト」について教えてください。

高橋:
解放プロジェクトは、VISIONGRAPHとYOMIKOさん、TNCさんの3社がタッグを組んで進めています。弊社が未来の兆しとなる技術やアイデアの種を集め、TNCさんが世界各地の生活者目線で「今、実際に起きているまちの変化」をレポートします。未来のアイデアと現在進行形の海外事例を掛け合わせて、YOMIKOさんがクライアントの課題解決に伴走していくという取り組みです。

小林さん:
この連携をきっかけに、あるデベロッパー・新事業研究チームのクライアントに対して継続的なインプットを行っており、現在は形を変えながらクライアント企業の社内広報に活用されるなど、3年ほど続く息の長い取り組みになっています。デベロッパーの方々にとっても、「技術の変化がまちを変える」という視点は新鮮な気づきだったようです。

高橋:
私たちが日本事務局を務めるSXSWには、エビデンスとしてはまだ弱いものの実現したら面白い、尖ったアイデアや技術が集まってきます。私たちはあえてそうした事例を紹介し、それをYOMIKOさんが現場のリアルな課題と組み合わせて「通訳」してくださる。この通訳のプロセスがあるからこそ、遠い未来の話が現実のまちづくりへと繋がっていくのだと感じています。実際のプロジェクトに自分たちのインプットが反映される機会をいただけるのは非常に貴重なことです。

小林さん:
私たちはまちの先進事例から未来を描くことは得意ですが、たとえば「車が変われば、レジデンスのエントランスも変わり、道も変わっていく」といった、プロダクトや技術の進化から都市の変容を捉えるVISIONGRAPHの視点に、大きなインスピレーションを受けました。

まちづくりの現場はどうしても現状の積み上げである「フォアキャスティング型」になりがちですが、100年続くまちを考えるとき、現在の延長線上で考える「フォアキャスティング」だけでは対応しきれません。だからこそ、「未来はこう変わるから、まちはこうあるべき」という「バックキャスティング型」の発想が必要です。

VISIONGRAPHが投げる突飛にも思えるボールを、私たちが「10年後の日本で実現できるかもしれない」という具体的な仮説や落としどころを見つけていく。この両輪が回っているからこそ、デベロッパーの方々にも「来るかもしれない未来」として興味を持っていただけるのだと思います。

「未来の兆し」を「まちのリアル」へと翻訳する小林さん。

思考の制限を外し、未来から今を問い直す:未来思考入門ワークショップ

――2024年に実施した「未来思考入門ワークショップ」について教えてください。

高橋:
私たちは、未来に対してより柔軟に発想を広げる能力を身につけていただくためのワークショップメニューをいくつか提供しています。YOMIKOさんと実施したのは、架空の2050年の家族の生活を想像し、そこから話を広げていくという2〜3時間で行うプログラムです。

具体的には、教材やワークシートを用いてインプットを行った後に、参加者それぞれに「架空の家族の仕事内容やどんな課題を抱えているのか」を自由に考えてもらいます。その後、グループでアイデアをシェアして、多角的に未来を考えていくという内容です。

ワークショップ当日の資料

2024年実施のSXSWインプット会の様子

小林さん:
未来を見つめる姿勢は組織全体にとって重要であるという共通認識のもと、VISIONGRAPHさんと仕事をしていないメンバーも含めて参加しました。参加者には日頃から業務として未来を考えているメンバーもいれば、現状の課題を深掘りすることをミッションとするメンバーもいました。普段とは違う思考を使う体験は、組織にとって非常に大きな刺激になったと感じています。

参加者からは、「自分がいかにフォアキャスティング型(現状からの積み上げ)で物事を考えているかに気づけた」といった感想が多く聞かれました。未来のありたい姿を起点にバックキャスティング型で考えることで、現在とのギャップが明確になり、「その差を埋めるために今何をすべきか」という視点が加わったようです。

共にバックキャスティングの重要性を説く、小林さんと高橋。

「妄想とデータ」で、ありたい未来を「可視化」していく。 未来の解像度をあげる、次代に向けたまちづくりのアプローチ

――今後の展望や、両社で取り組んでいきたいことはありますか。

小林さん:
先ほど「ギャップを明らかにすること、その差を埋めるために今何をすべきか」という話がありましたが、シビックプライドでは、そのギャップを数字で見える化する新しい取り組み「まちインサイト5指標」を始めています。

生活者の方々のニーズ(ありたい姿)と、現段階のまちの姿に着目した取り組みはこれまでもあったとは思いますが、そのニーズギャップを数字で明らかにするこの取り組みは、デベロッパーや自治体の方から、強い関心を持っていただいているところです。この取り組みも現在値と「未来」がキーワードになるので、VISIONGRAPHさんの協業なども今後ありえるような気がしています。

高橋:
そのまちに暮らす人々の気持ちを見える化するというのは非常に面白い取り組みですね。より流動的に暮らす場所を選択しやすくなっていく時代の流れの中で、これからのまちづくりは平均的な理想形を追い求めるのではなく、それぞれの特色を打ち出した個性的な進化をしていく必要性が出てくるのではないかと思います。

見える化したデータを元に、そのまちの目指す未来像をイラストやキャラクターにして発信できれば、それぞれのまちの個性が際立って面白くなりそうです。

小林さん:
また、未来のまちづくりを大人が発想して作ったとしても、実際に暮らしていくのは子どもたちです。だからこそ、子どもたちが「将来どのような場所で暮らしたいか」を主体的に描き、それをデベロッパーであったり自治体の方々と一緒に形にするような取り組みをしていきたいと考えています。

柔軟な未来発想ができる子どもたちが増えれば、人口減少などの課題があったとしてもポジティブな目線で未来を描けるようになるはずです。住民自らが能動的になることでまちへの愛着が高まる「シビックプライド」の観点からも、未来を妄想できる次世代を育てることを大事にしていきたいです。

高橋:
VISIONGRAPHが掲げる「未来を考えられる人を増やしていきたい」という想いを、リアルな場で提供できればと考えています。私たちが構想したことが実際の都市にインストールされ、具現化されることはプランナー冥利に尽きます。単なるワークショップに留まらない「ありたい姿」が日本の新しい文化として根付いていくと面白いですよね。

小林さん:
まちづくりには「いかにロングバリューであり続けるか」という視点が不可欠です。まちづくりの成否は「未来への妄想力」にかかっていると言えます。異なる専門分野を持ち、違う視点で未来を妄想し合える、VISIONGRAPHとの関係性は、新しい発見を生む素晴らしいものだと思います。

高橋:
未来予報には正解はなく、誰もわからないからこそ多様性が認められる分野でもあります。VISIONGRAPHのやりたいことと、YOMIKOさんのビジョンは深く共鳴しているので、今後もさまざまな可能性を探っていきたいです。

未来を考えられる人を増やす。共鳴する二人の志は、次世代が主役となる100年後の景色へ。

VISIONGRAPHでは5〜10年後の近未来の話をする事もあれば、50年以上先の遠い未来まで思考を広げて、妄想を繰り返す事もあります。まちづくりの分野では、そんな「未来思考力」が、必須のスキルになるという事を実感する対談でした。
100年先の人々の暮らしを想像しながら、まちをつくる。そんなロマンに満ち溢れたまちづくりに、自分が少しでもお役に立てていれば嬉しいです。


執筆・取材:久保佳那
編集・写真:井上薫

未来予報(株)のワークショップ

企業の経営会議やマーケティング・デザイン・人材育成・チームビルディングから、
学術機関や地域団体の交流など、さまざまなシーンで当社のワークショップを採用頂いています。

久保佳那

久保佳那

ライター

IT系企業で法人営業、人材系企業で求人広告制作・マーケティング、Webマーケティング会社でオウンドメディア企画・ライティングを経験。2017年より独立。経営者や管理職などのインタビュー、書籍のライティングなどを行う。趣味は日本酒(熱燗)と韓国語(日韓ミックス)

未来予報とは?
企業インタビュー

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