シリーズ2030年代の働き方では、さまざまなテーマでこれから現れる｛かもしれない｝職業に従事する未来人をご紹介します。この未来予報®︎を見て、未来の世界に思索をめぐらせてください。
テクノロジーと価値観の変化によって、“都市との関わり方”や“暮らしのかたち”が大きく変わりつつあります。
3Dプリント建築、移動式住居、AIによる都市管理、そして住民参加型のまちづくり…。
かつて建築と行政は“専門家だけの領域”とされてきましたが、今や誰もがまちに関わり、アップデートしていく時代が到来しています。
そして2034年。建築と行政を横断するような、まったく新しい職業が次々に生まれています。
今回はその中から、まちの未来を再定義する3人の専門家をご紹介します。
彼らは、「暮らしを支える」ことを、テクノロジーと感性の両面から編みなおすプロフェッショナルです。
彼らは一体どのようなかたちで、2030年代の都市と社会に貢献しているのでしょうか？
様々な種類の3Dプリンターで「あたらしい建築物」をつくる：3Dプリント建築家
グレース
3Dプリント建築家
わたしの仕事は、3Dプリンターを使った建築物を設計することです。最初の模型から建設までプリンターを活用します。様々な規模のプロジェクトがありますが、いま設計しているのは遺跡の復元とその隣にできる新しい博物館です。出力される素材は、遺跡に使われている材料に近い素材を開発頂き、精度が高く出力されるようになっています。ドローン型プリンターとAIによるインフラ自動補修プロジェクトや、宇宙の建築等もありますが、わたしは歴史的建造物修復を専門にしています。だって、伝統と技術の組み合わせはワクワクするでしょ。
「歴史は過去にある？ いいえ、わたしの手の中にあります。」
グレースの仕事は、3Dプリンターを使って“記憶の建築”を再生すること。
失われた遺跡や、風化したモニュメント──その復元に必要な設計から出力、建設管理までを一貫して担います。
現地の素材をベースに開発された新素材を使い、AIと連動したドローン型プリンターで、数百年前の建築が“今”によみがえります。
グレースが携わってきたプロジェクトでは、
- かつての文化拠点を復元し、新たな博物館として再設計した複合施設
- デジタルツインで記録された空襲跡地をもとに作られた追悼の建築空間
など、“過去”と“未来”をつなぐ建築が生み出されています。
「文化や記憶は、ただ保存するだけじゃ守れないんです。体験し、語り継がれてこそ、生き続けるものだと思う。」
かつて、建築は未来をつくるものでした。
いま、建築は“未来に残す過去”を編みなおす仕事へと変わりつつあります。
“プリントする建築”は、失われかけた記憶に、もう一度かたちを与える新しい希望なのです。
すでにある「3Dプリント建築士」につながる先進事例
この記事では、3Dプリンターを使った日本での建築事例を紹介する。世界で3Dプリント住居の建築が相次ぐなか、日本の状況はどうなのか。日本が抱える課題に触れながら紹介していく。
大林組は、2022年5月から開始していた3Dプリンターによる建屋建設について、3Dプリンター実証棟「3dpod」を完成させたと発表した。壁や床などの地上構造物のすべてを3Dプリンターで製造している。
建設用３Dプリンタを開発する株式会社Polyuse (本社 : 東京都港区、代表 : 岩本 卓也 / 大岡 航 以下Polyuse)は、建築...
ICON ‐ 3Dプリンターによる建設プロセスの革新に挑む のページです。Fortec Architectsは、経営と建築を掛け合わせて、建築資産の課題解決と価値創造を行う戦略デザイン&建築設計ファームです。
「いつでも引っ越しできる家」の保守・管理をおこなう：モバイルハウス整備士
エリザベス
モバイルハウス整備士
わたしは、移動式住居を専門に整備する仕事をしています。電気や下水道の整備
はもちろんのこと、引越しの手配や場所の管理までトータルでケアをしています。
モバイルハウスにもいろいろな形があります。巨大なラックの中に入れるもの、キャン
ピングカーのように独立しているもの。このモバイルハウスはコンセプト型です。
それぞれにあわせた駐車場ならぬ駐家場が全国にあります。家のサブスクが昔に
話題になりましたが、今ではうわものだけを購入して土地は持たない半所有とい
うライフスタイルが、少しずつ広がってきています。とても気軽なんですよ。
「“家”ってどこ？ わたしにとっては“移動する居場所”です。」
エリザベスの仕事は、モバイルハウスの整備と暮らしの環境デザインを一体で行うこと。
電気・水道・通信インフラはもちろん、地盤の状態や気候、隣人との距離感まで──「この土地で、この人が快適に暮らせるには？」を考え、カスタマイズされた住まいを走らせます。
エリザベスが手がけたプロジェクトでは、
- 森の中に滞在しながら執筆できる“執筆者用モバイルスタジオ”
- 引越し先に合わせてレイアウトが自動変形する“半所有型住居”
など、住まいの定義を大きく変える新しい暮らしの形が広がっています。
「移動できるからこそ、人との距離感や、暮らしのテンポを自分で選べる。それってすごく自由なことだと思いませんか？」
かつて、“家を持つ”ことが人生のゴールでした。
いま、“家と共に動く”ことが、新しい生き方のスタート地点になっています。
“走る建築”は、変わりゆく社会の中で、変わらない安心を運ぶ存在なのです。
すでにある「モバイルハウス建築士」につながる先進事例
Tiny Living | Escape | United States. For the past 25 years we have been designing and building award winning Tiny homes.
モバイルハウス「住箱」は建築家の隈研吾×スノーピークによるトレーラーハウス製品です。隈研吾がずっとつくりたかった、旅をする建築。住むをもっと自由に。
BESSのログ小屋「IMAGO（イマーゴ）」。なんでもありの自由な人生、だれかに決められた規制から飛び出そう。そんなじぶん流が未来をつくる。無垢材を使った空間に、企みをつめこんで。IMAGO！
社会課題に切り込む映像作品の「社会的インパクト」を最大化する：インパクトプロデューサー
アンドリュー
インパクトプロデューサー
わたしは、映画のプロデューサーですが、製作や興業収入ではなく、社会的な影響力
を最大化することを担当します。主にドキュメンタリー作品ですが、NPO
団体や行政・国際機関と連携して、作品にまつわるステークホルダーの協力体制
をつくります。作品製作に口を挟むことは多くないですが、
作品を観た人が、何らかのアクションをできるようになっているかは自分の仕事。
寄付でもいいし、帰りがけにゴミを拾うでもいい。何でもいいので小さな行動を
誘発する仕掛けを用意して、作品が人々の行動を変えるキッカケを増やしています。
「観たあと、何をする？──わたしは“行動”まで設計します。」
アンドリューの仕事は、映画や映像作品を通じて、社会に変化を起こすこと。
製作費や観客動員数ではなく、「この作品が、どんな行動を生むか？」を軸に企画を進めます。
NPOや行政、国際機関と連携しながら、“物語のその先”をデザインするのが彼の役割です。
アンドリューが携わったプロジェクトでは、
- 難民問題を描いた映画の上映後、寄付サイトやボランティア登録ページへの導線を設計
- 海洋汚染のドキュメンタリーに合わせ、来場者が“帰り道でごみを拾う”キャンペーンを実施
など、観ることと動くことをつなぐ“体験の設計”が随所に仕込まれています。
「映画は、人の心に火を灯すメディア。でもその火を“燃やしっぱなし”にしないで、小さくてもいいから次の一歩に変えてあげたいんです。」
2030年代、表現の力はただ感動を与えるだけではなく、行動を引き出す“インフラ”へと進化しています。
ストーリーテラーたちの背後には、“行動のプロデューサー”がいるのです。
すでにある「インパクトプロデューサー」につながる先進事例
3人の共創によって、ある｛かもしれない｝2034年のニュース
このニュースまであと…
📡【2034年4月14日 LEO7s NEWS】
『“動く都市”のプロトタイプ、正式始動へ —— 空き地と空想が、地域資源になる時代』
📰 2034年4月14日、国土共創庁は「モビリティ都市区」構想の第一号モデルエリアを認定。移動型住居と3Dプリント建築を組み合わせた“動く都市”が、東京湾岸エリアで本格稼働を開始する。
この構想の原点は、2029年に始まった実験都市プロジェクト「FLOATING NEIGHBORHOODS（浮遊する近隣）」にある。
プロジェクトの牽引役となったのは、以下の3人の専門家たちだった。
🧱【「建築＝保存」から、「建築＝更新」へ】
3Dプリント建築家・グレースが設計を担当したのは、地域の記憶を素材に再編集する「可動式メモリー建築群」。
たとえば、解体予定の歴史的な銭湯の装飾タイルをスキャンし、移動式シェルターの外装に活用。
また、町の伝統行事に使われた神輿のパーツを構造モジュールとして転用し、子どもたちの遊び場に。
「移築」ではなく、「動的アーカイブ」として設計することで、建築は“生きた文化資源”として各地を巡回する。
「技術は、忘れられた記憶を運ぶ舟になれる。」
そう語るグレースの手によって、“保存”だけではない、流動的な都市の再構築が進んでいる。
🚐【移動＝自由ではなく、“社会接続”の手段へ】
モバイルハウス整備士・エリザベスが手がけたのは、移動式住居の“都市内ネットワーク”。
移動住宅はもはや“個人の自由”の象徴ではない。
介護待機中の高齢者、離婚後に一時的な避難が必要なシングルマザー、大学の研究生、災害ボランティアなど——
「一時的な居住」と「社会的な支援」を結び直すための“都市型モバイル・ケアユニット”として再定義された。
設置場所は、遊休地やイベント跡地、使われなくなった駐車場などをリアルタイムでマッチング。
「家は“所有”から、“編成”の時代に入りました。」
エリザベスの言葉通り、都市の空きスペースと住まい手を動的に結びつける仕組みが、社会的な包摂を拡張し始めている。
🎬【“語られなかった景観”が、社会を動かす映像になる】
インパクトプロデューサー・アンドリューは、この動く都市のドキュメンタリー『PATCHWORK CITIES』をプロデュース。
だが、それは単なる映像作品ではない。
視聴者がオンライン上で“共感投票”をすると、その得票に応じて行政補助金の配分が変わる「情緒民主型の参加予算制度」と連携。
「都市政策は、専門家だけが決める時代ではありません。共感が“都市の意思決定”に影響を持つ社会を作りたかった。」
アンドリューの仕掛けにより、「政策＝映像を通じた参加型の物語」へと進化しつつあるのだ。
🏙️【都市づくりの未来は、“アドレスのない人”と共に描かれる】
この動く都市構想には、住所不定者や被災地の移住希望者、シェアを前提とした暮らしを望むZ世代など、多様なプレイヤーが参画。
「建てて終わり」ではなく、「移動しながら、つながり続ける都市」。
それは、建築・居住・物語・支援のすべてが流動性と包摂性のなかで再編される都市の新しいかたち。
2034年、都市計画は“インフラ”から“インターフェース”へと、その役割を静かに変えようとしている。
未来の建築と行政を支える職業たち
2034年、都市と制度の境界は、静かに、しかし確かに再構築されつつあります。
グレースのような3Dプリント建築家。
エリザベスのようなモバイルハウス整備士。
アンドリューのようなインパクトプロデューサー。
彼らの仕事は、ただ建物をつくることでも、制度を守ることでもありません。
“暮らしのあり方”を、技術と共感のあいだでデザインすることです。
動く家、再生される遺構、社会を動かす映像表現。
かつてバラバラだったこれらの要素が、いまでは共鳴し合いながら、
都市の未来を柔らかく編み直そうとしています。
そして、私たちは今、問われています。
どんなまちで、誰と、どんなふうに生きていたいか。
暮らしや制度を、誰の視点からどう描き直すのか。
グレースたちは、「建築＝構造」でも「行政＝管理」でもなく、
“建築と行政＝関係性をつくる創造的プロセス”として、2030年代の働き方を更新しています。
これからの社会では、こうした“制度と風景の交差点”に立つ新たな職業たちが、
私たちの住まい方、つながり方、そして働き方そのものを根本から変えていくでしょう。
2034年、あなたは、どんな「暮らしの未来」に関わる仕事をしていたいですか？
