五感で学ぶSDGs! 町の材木屋が作った究極の学び舎「木力館」

未来をのぞける博物館シリーズの第十弾。今回は、埼玉県さいたま市にある「木力館(きりょくかん)」を紹介します。
当施設は、日本人にとって日常では欠かすことのできない“木”をテーマにした博物館。日常で当たり前に存在している素材にもかかわらず、その特性や背景について深く理解している人は意外と多くないかもしれません。

木力館は、入館料が無料でありながらも、手触りや香りなど五感を使いながら、スタッフの方の話も交え、未来を見据えながら深く学べる貴重な場所なのです。

森林保全や地産地消などSDGsの観点からもこれからの未来を生きる上で知っておきたい木について、木力館を通して考えてみたいと思います。

町の材木屋さんが運営

木の博物館ならではの看板

木力館は、さいたま市内の材木屋さんが運営しています。駅からは離れた閑静な住宅地に位置しており、大きな板材を用いた看板が目印となっています。

たくさんの材木が並ぶ迫力ある光景

材木屋さんということもあり、敷地内には凄い数の材木が立てかけてある珍しい光景も。日常で材木屋さんに足を運ぶ機会はそうそうない人も多いかと思いますので、敷地内から見える景色を見るだけでも、ちょっとした非日常感を味わえます。

建物は木力館のために一から建てられた

今回のターゲットである木力館の建物も敷地内に佇んでいます。当館は無料であり、予約の必要はありません。しかし、お昼休みがあるため12時から13時は入れないのは要注意です。

地元の木材がふんだんに使われた博物館

木のぬくもりが感じられる何とも贅沢な空間

館内に足を踏み入れると、心地よい木の香りが訪問者を包み込みます。床や柱、階段、天井など、建物の全ての部分が木材で見事に作られている極上の空間。

床にはカラマツとヒノキ、天井にはサワラ、そして素材そのままの状態で組まれている柱にはクワや極太のポプラと、様々な国産の木材が贅沢に使われているのです。

テーブルや椅子まで、あらゆるものが木材でできています

開館は2006年10月。釘を一切使わない、柱と柱を横木で縫い合わせる伝統工法「通し貫工法」で造られており、大工さんの見事なまでの腕の高さがうかがえます。

そして何より驚かされるのは、木力館の“快適さ”。冷暖房は扇風機のみであり、それでも夏は涼しく、冬はほんのり暖かい。それは、木が湿度を吸い、空気を整え、自然と心地よい環境をつくりだしているから。それゆえ、築15年以上にもかかわらず、まるで新築のような清々しさが漂っているのです。

見事な曲線美に心が揺さぶられる

そんな当館最大の目玉は、二階へ続く螺旋階段。削るだけで一か月、組むだけで一か月という家一軒分が建つほどの手間がかかっており、木を曲げているわけではなく、太い気を曲るように削りとったという技術力の高さ、そして曲線の美しさには大変驚かされます。

木の香り比べができる貴重な体験

館長の名前まで彫られている

当館は、館長・大槻忠男さんが運営。材木屋をはじめて以降、北海道から鹿児島まで全国津々浦々の山々を半世紀にわたって見てきたゆえ、多くの人に木のことを知ってもらいたいという想いから開館しました。

「自然の良さは、言葉や文章では表現できない!実物を見て、体感するほかはないのです!」と力強くおっしゃるように、実物から五感を通して木を理解してほしいという想いが詰まっているのです。

木材の香り比べができる貴重な体験

それゆえ、様々な体験ができる所が当館の魅力でもあり、その一つがヒバ、ヒノキなどの香りを比べること。

木は本来水分を欲しがっているため、水分を吸い込むと香りを吐き出す効果があり、そのため、それぞれの素材の板材に霧吹きで水をかけることで、存分に香りを体験できるのです。

裏を返すと種類や特徴が細かく書かれている

例えば、クスノキはツーンとする香りで防臭効果があり、ヒバはリラックス効果を感じられ、カヤノキはシナモンのような香りが漂う。とはいえ、木の香りは人によって感じ方は様々とのこと。

実際に香りをかいでみると、種類によって全く異なることに驚かされます。

知的好奇心を刺激される木の世界

サンプルが実に豊富

建築材としても興味深いことはたくさん。

家の構造躯体(くたい)に使われる木材には乾燥方法・製造方法の違いがあり、天然乾燥、人工乾燥、集成材(張り合わせの材料)の主に三つに分類されるとのこと。

天然乾燥は、山で木を切って下ろした後、自然乾燥によって水分を飛ばし、人工乾燥は130℃で水分を飛ばす。集成材は張り合わせの材料であり、今の木造住宅の多くに用いられています。

天然乾燥は良質であるものの値は張ってしまう。集成材は安価ではあるものの、ボンドでくっ付けているため雨ざらしにすると数年で弱くなっていく。どれにおいても100%完璧なものは無く、良い部分も悪い部分もあるのです。

年輪の太さが大きく異なることが見て分かる

ヒノキを使った年輪の間隔の違いにも学びがあります。同じヒノキであっても、木は環境によって育ちかたが異なるため、同じ種類の木でも値段は全く異なります。

館内のサンプルで見てみると、成長が遅く目が詰まっている方は樹齢80~100年、早い方は40~50年。育ちは早い方は安価であるものの、中はスカスカで強度が弱い。価格でいうと5倍も違いが出るそうです。

とはいえ、今の人は躯体にまで目を向ける人はあまりおらず、住宅設備に目を向ける人がほとんど。そうなると、設備は豪華だけど長持ちしない家になるわけで、家を建てるときにはどこにお金をかけるべきかを自分自身で考える必要がある。そのために、知識を持ったうえで自分たちの理想に合う家を建てるために、当館の訪問はそうした手助けになることもあるのです。

見事に組まれた天井の光景は圧巻

また、木には種類によって性質が異なるため、その性質に合った使い方がされています。

当館の天井にはサワラが使われているが、それは水に強くて加工性があるため。その他には、クリも耐水性に優れているため、線路の枕木に使われていたり、イチョウの木は柔らかくて殺菌効果があるため、まな板にも使われる。さらに囲碁や将棋盤には、材質・音・耐久性が理想的なカヤノキが使われている。

日々の日常で、以上のような背景で適材適所に木材が使われていることに、納得するだけでなく、知的好奇心が揺さぶられるわけです。

木を通して持続可能な社会を考える

県内の保育園に寄贈しているパズルや積み木も埼玉県産

当館の建物に使用されている木材の多くは埼玉県産。国内では外国から輸入された物が使われることは多いものの、できるだけ同じ環境の場所で使った方が長持ちするそうです。

そうした地産地消に関する話から、近年導入された1人年額1000円を納めることになっている森林環境税について、さらには、近年の木材価格の高騰問題(ウッドショック)に関することなど、木に関する現状やこれからの未来についてまでの様々な話を聞くことができるのです。

これだけ木に関する話が聞けたり体験ができるのは、全国を探してもここだけ。木力館を通し、身近な素材である木について学んでみてはいかがでしょうか。

博物館に行ってみよう!

木の博物館「木力館」
住所:埼玉県さいたま市岩槻区新方須賀558-2
営業時間:午前10時~午後4時(休憩時間:昼12時~午後1時)
休館日:金曜日(お盆、年末年始などは、木力館カレンダーをご覧ください。)
入館料:無料
公式HP:https://www.wood-power.com/

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丹治 俊樹

丹治 俊樹

博物館ライター

博物館マニアであり、「知の冒険」主宰者。本業であるフリーエンジニアのかたわら、博物館ライターとして、珍スポ/遊郭跡/博物館/昭和レトロなど2000スポット以上を取材。テレビ、ラジオ、雑誌などのメディアに出演するほか、書籍の出版、講演会の開催なども行う。二郎全店制覇。著書に『世にも奇妙な博物館 〜未知と出会う55スポット』などがある。 ブログ「知の冒険」:https://chinobouken.com/

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