VUCAと呼ばれる正解のない時代。いま、多くの企業が現状の延長線上からの脱却を図り、ビジネスに「未来思考(フューチャーズ・リテラシー)」をインストールしようと挑戦しています。
しかし、既存の枠組みや確実性が重んじられる組織において、不確実な「未来」を浸透させることは決して容易ではありません。「本当にその未来は来るのか?」「投資の根拠は?」という壁にぶつかり、頓挫してしまうケースも少なくありません。
それでも、なぜ彼らは未来思考を取り込もうとしたのか。そして、巨大な組織の壁を乗り越え、いかにしてそれを浸透させたのか。
今回、VISIONGRAPH Inc.(未来予報株式会社)が伴走してきた企業の軌跡を取材しました。業界も、プロジェクトを牽引する部署も、企画が立ち上がった背景もまったくバラバラです。しかし、彼らの歩みを紐解いていくと、一言で表せる確かな共通点がありました。
それは、「正解のない未来から逃げず、対話と試行錯誤を止めなかったこと」ということです。
これから未来思考をビジネスや経営の中枢に取り込みたいと考えている方。
現状のロードマップの延長線上にはない、新しいモノづくりに挑みたい方。
そして、「組織になかなか新しい考えが根付かない」と日々試行錯誤している方へ。
組織の中で孤軍奮闘し、時には仲間を巻き込みながら文化を変えていった「仕掛け人」たちの声は、次の一歩を踏み出すためのヒントになるかもしれません。
【事例1】株式会社JVCケンウッド・デザイン
未来予測を「組織の文化」へ
JVCケンウッド・デザインでは、一部の専門家だけが持つ「個のスキル」としての未来予測を、組織全体の共通言語(文化)へと昇華させる取り組みを推進しています。
その中核を担うのが、5年以上継続されている「デザイントレンド調査研究」です。2024年度は「未来展望台」というコンセプトを掲げ、ビジョンデザインスタジオの若手デザイナーを中心とした有志メンバーが、社会の微細な変化や兆しを26のカテゴリーに分類・可視化しました。
最大の特徴は、その共有手法にあります。膨大で難解になりがちなリサーチ結果を、あえて「報告書」ではなく、ポップなイラストを添えた「カード形式」でアウトプットしました。これにより、オンラインホワイトボード「Miro」を通じて、本社を含むグループ全体の社員が、ワークショップや日常の雑談の種として気軽に未来のトピックに触れられる環境を構築しています。
こうした活動を継続できている背景には、メンバーを固定せず少しずつ入れ替えることで、過去の知見の継承と新鮮な視点の導入を両立させる組織的な仕掛けがあります。単なる情報共有に留まらず、部署の垣根を越えて「少し先の未来」を共に対話する土壌を育むことで、企業全体の創造性を高める原動力となっています。
👉 【本編へ】現場で活用されている「カード」の実物と、導入のプロセスを見る
【事例2】パナソニック株式会社
「違和感」から未来を実装する
パナソニックのデザイナー二人が立ち上げた「ふつう研究室」は、日常に潜む小さな「違和感」を起点に、未来の兆しを組織にインストールするユニークな研究実践を行っています。
活動の原点は、身近な友人とは語り合う「性」や「ジェンダー」といったテーマが、企業内ではタブー視されがちであることへの違和感でした。前身のプロジェクト「YOUR NORMAL(あなたのふつう)」を経て、これらを特別な社会課題としてではなく、あくまで一人ひとりの日常の延長線上で捉え直す探究を続けています。
その成果が具体的に結実した事例が、2025年4月に刷新した「パナソニック ショウルーム」のユニフォームリニューアルです。インクルーシブデザインの手法を用い、全国の働く当事者と対話を重ねることで、従来の性別固定観念や機能的な不満を解消。20通りの組み合わせから自分らしく選択できる、多様な働き方に寄り添ったスタイルを実現しました。
メンバーが本業を持ちながら「20%の社内副業」として活動している点も特徴的であり、部門を超えたハブとして機能しながら、個人の「モヤモヤ」を組織の新しい価値へと翻訳しています。こうした「ふつう」を再定義する対話の積み重ねが、大企業の中にしなやかな未来思考を根付かせる原動力となっています。
👇【本編へ】社内副業から全社の取り組みへ広げた、担当者の対話の軌跡を読む
【事例3】富士通株式会社
巨大組織に「未来思考」をインストールする
富士通では、2014年から始まった「FUJI HACK」を通じて、受託型のマインドから脱却し、顧客と共に未来を創る「共創人材」を育成する取り組みを10年以上にわたって継続しています。
このプロジェクトの中核を担うのは、時代に合わせて形を変えながら進化してきた「ハッカソン」です。当初はエンジニアの意識改革や事業創出を目的としていましたが、現在は「未来洞察」を事前ワークショップとして導入。あえて現在の延長線上ではない、飛躍した未来のシナリオ(未来予報)をインプットすることで、参加者の思考の枠を外し、質の高いアイデアを生み出す土壌を整えています。
最大の特徴は、大企業特有の硬直化を防ぐための「進化と継続」にあります。当初の社内向けイベントから、2022年以降は他社の参加者や運営を巻き込む「社外共創型」へとフェーズを移行。12万人を超える巨大組織でありながら、オンライン開催の早期導入や運営メンバーの柔軟な入れ替えを行うことで、プロジェクトの形骸化を防ぎ、熱量を維持し続けています。
単なる技術開発の場を超え、社内外の知見を重ね合わせることで「自分たちが作りたい未来」を問い直すこの活動は、巨大組織において変化の火を灯し続ける象徴的なプラットフォームとなっています。
👇 【本編へ】12年続くハッカソンを支える、運営チームの工夫と想いを知る
【事例4】森ビル株式会社
「対話」から始まる価値創造の場
森ビルが2025年4月、虎ノ門ヒルズに開業した共創施設「Glass Rock(グラスロック)」は、社会価値と経済価値が両立する社会を目指し、多様な人々が「つながる・まなぶ・ひろげる」ためのプラットフォームです。
この施設の構想は、2021年のコロナ禍において、個人の価値観が大きく揺れ動いた時期に始まりました。20世紀の「企業の時代」、21世紀初頭の「個の時代」を経て、これからは個人が社会と折り合いをつけながら共に生きていく視点が必要になる――。そんな時代認識のもと、単なる会員制ライブラリーではない、企業や個人、NPO、研究者がフラットに交わる場として設計されました。
最大の特徴は、施設活動の基盤に「未来思考・対話・共創」という3つのリテラシーを据えている点にあります。正解のない社会課題に対し、異なる立場の人々が「未来展望」を共有し、対話を通じて解決策を模索するプロセスそのものを重視しています。また、プロジェクトの初期段階から外部パートナーと伴走し、世界中の学びの施設の動向をリサーチしながら、虎ノ門という立地に相応しい「創(創造)」と「動(行動)」を循環させるコンセプトを練り上げました。
単なる場所貸しに留まらず、コミュニティ運営の専門家が介在して対話を活性化させるこの取り組みは、都市の中で新たなイノベーションと持続可能な社会を実装するための、実験的な「共創の場」として機能しています。
👇【本編へ】人を巻き込み、対話を生む「場づくり」の具体的なステップを読む
【事例 5】株式会社アイシン
「単なる妄想」を「確かなシナリオ」へ
自動車業界の変革期に立つアイシンでは、既存製品の延長線上で考える「フォアキャスティング」を脱却し、あるべき未来から逆算する「バックキャスティング」による価値創出に挑んでいます。
この取り組みの核となるのは、感性とロジックを融合させるプロセスです。当初、不確実な未来像は社内で「リスク」と捉えられ、投資判断の壁に直面しました。しかし、企画チームは定量的なデータで社会像の根拠を固める一方、未来の暮らしを「小説」や「動画」として可視化する手法を採用。物語を通じて技術がもたらす体験を鮮明に描くことで、論理だけでは動かせない組織の共感を引き出しました。
最大の特徴は、未来構想を中期経営計画や経営戦略の「実行手段」として紐づけた点にあります。会社が掲げる強みと、社会・ユーザー像の変化を、提供価値によって論理的に連結。これにより、未来像を単なるビジョンに留めず、具体的な製品開発やOEMへの提案、さらにはIR活動へと繋がる「対話のツール」へと昇華させました。
伝統的な製造業の堅実さと、不確実な未来への探究心を両立させるこの活動は、巨大組織において「自分たちで拠り所となる未来を定義する」ための強力な羅針盤となっています。
👇 ロジックを求める組織に、新しい価値観を浸透させたプロセスを見る
未来は「予測」するものではなく、「意志」で創るもの
各社の事例に共通していたのは、決して最初から全社的な理解があったわけではない、という事実です。 ひとりの「違和感」や、数人の「有志の妄想」からすべては始まりました。彼らは巨大な組織の壁にぶつかりながらも、未来を「自分ごと」として語り合い、時にはカードや小説といったクリエイティブの力を借りて、組織全体へとその熱を翻訳していきました。
未来思考(フューチャーズ・リテラシー)とは、単なるトレンド予測のフレームワークではありません。それは、「私たちがどんな未来を生きたいか」という意志を問い直し、組織の羅針盤を創り出すための泥臭い実践です。
あなたの組織にも、まだ言葉になっていない「未来の種」や「違和感」を持った人がいるはずです。VISIONGRAPH Inc.(未来予報株式会社)は、そんな組織の中の「仕掛け人」たちに伴走し、確かなビジネスのシナリオへと翻訳するお手伝いをしています。
「現状の延長線上から脱却したいが、何から始めればいいか分からない」
「未来思考のワークショップをやってみたい」
「未来のリサーチをしてみたいが、やり方がわからない」
そんな壁を感じている方は、ぜひ一度、みなさまの抱える「モヤモヤ」をお聞かせください。
未来予報(株)のワークショップ
企業の経営会議やマーケティング・デザイン・人材育成・チームビルディングから、
学術機関や地域団体の交流など、さまざまなシーンで当社のワークショップを採用頂いています。