コピーされていく“私”と、失われる境界線 ─ Z世代が直面するアイデンティティの未来

本連載は、アニメや漫画を通じてZ世代が感じる未来について思索をめぐらすシリーズです。
第1回目はSFや未来好きから絶大なる人気を誇る「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」です。

あらすじ(Production I.G 公式サイトより引用):
ネットから離脱しろ
西暦2030年——あらゆるネットが眼根を巡らせ、光や電子となった意思をある一方向に向かわせたとしても“孤人”が複合体としての“個”になるほどには情報化されていない時代……。情報ネットワーク化が加速度的に進展し、犯罪が複雑化の一途を遂げる社会的混乱の中、事前に犯罪の芽を探し出し、これを除去する攻性の組織が設立された。内務省直属の独立部隊公安9課、通称「攻殻機動隊」である。公安9課の役割は、深刻な電脳犯罪への対処、国内における要人の援護、政治家の汚職摘発、凶悪殺人の捜査から極秘裏の暗殺まで、多岐に渡っている。彼らは電脳戦を最も得意としつつ、高性能義体を生かした物理的な戦闘においても特筆すべき能力を発揮する、精鋭部隊である。
【攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX】
原作:士郎正宗
監督・シリーズ構成:神山健治
制作:Production I.G
放送開始日:2002年10月1日(全26話 各30分)
動画配信サービス:NETFLIX/hulu

攻殻機動隊を観たとき、多くの人がまず惹かれるのは、そのスタイリッシュな世界観やアクションだ。
でも、この作品がずっと色褪せずに語られ続ける理由は別にある。

「私とは何か?」という問いに、これほど真正面から向き合った作品は少ない。
そして今、電脳化(身体の機械化)というSFの世界へ行かなくとも、その問いはZ世代の日常に突きつけられている。


■「本物の私」は、どこにいる?

SNSでの人格分裂はもう当たり前だ。

  • Instagramの“整った私”
  • X(旧Twitter)の“毒舌な私”
  • TikTokの“テンション高い私”
  • 友達とのグループLINEの“素の私”
  • BeRealでの“最新を共有する私”

それぞれのアカウントで、少しずつ違う“私”が生きている。

攻殻機動隊の主人公・草薙素子は、義体を何度も交換しながらも、「私とは何か?」という問いを手放さない。
身体すら簡単に乗り換える世界で、残るのは“ゴースト(魂)”だけだ。

けれど現代のZ世代は、身体はそのままでも、人格がいくつも並列で存在している。
むしろ、電脳化していないからこそ、“どれが本物かわからない痛み”を抱えやすい。


■AIが私を“真似する”時代

さらに最近は、AIが文章を生成し、
「これ私が書いた?」と錯覚するレベルの精度で模倣してくる。
自分の口調が真似され、趣味嗜好が学習され、過去の投稿から“新しい私像”が作られる。

攻殻機動隊では、記憶を書き換える“ゴーストハック”が恐怖として描かれるが、現代ではもっと静かで、もっと日常的だ。

“自分っぽい存在が、自分と同じ速度で増えていく”
これはもう、コピーというより“増殖”だ。

そして、そこに悪意はない。
それが余計に怖い部分でもある。

知らない間に、“私のコピー”がネットに散らばり続けている。


■「ログアウトしても残っている」世界

攻殻機動隊の世界では、人間はネットと常時接続し、
思考すらネットワークに流れ込む。

私たちが日々接している「ネットワークの海」も、構造としてはほとんど同じだ。
アカウントを消しても、スクショは残る。
投稿を消しても、拡散は止められない。
失言も黒歴史も、匿名アカウントも、検索すれば見つかる。
ログアウトしても、私は残り続ける。

攻殻機動隊の電脳空間の幽霊のように、私たちは“痕跡としての私”を生み続けている。


■未来洞察:人格は“ひとつである必要”がなくなる

未来の社会では、“統一された人格”という概念が弱まっていく。

AIアバターが自分の代わりに返信する。
仕事用の人格が24時間稼働する。
趣味アカウントは、自動で自分好みの投稿を続ける。
つまり、「私」という存在が“分散型のネットワーク”になる。
身体は一つでも、人格は複数で、そのどれもが“正しい私”として扱われる。

攻殻機動隊の電脳世界は、実は電脳化を必要とせず、SNSとAIだけで再現されつつある。
そうなると、「私は何者か?」よりも「どの人格が、今の私として適切か?」という価値観へ移行していく。


■じゃあ、私たちの“ゴースト”はどこにある?

攻殻機動隊では、どれだけ身体が入れ替わっても、どれだけデータ化が進んでも、最後に残るのはゴースト(魂だと言う)。

ではZ世代のゴーストはどこにあるのか?

それはたぶん、“一貫した正しさ”ではなく、ネットのどこにも完全には書けない、フィードに載せない部分に存在する。

  • 誰にも言わない本音
  • うまく言語化できない不安
  • わからないまま抱えてる感情
  • 好きかどうかすら判別できない衝動

そうした“余白”にこそ、コピーされない“私”が残る。

攻殻機動隊は、未来のテクノロジーの話をしているようでいて、実は“人間の余白の話”をしている作品だ。
複数の人格がネット上で動き続けても、AIが私を模倣しても、痕跡が勝手に増え続けても。
最後に「これが私だ」と言えるものは、どこにも投稿されていない、

ただ内側に静かにある“ゴースト”なのかもしれない。


■終わりに:境界が溶けても、人は消えない

攻殻機動隊の世界のように、
“人間の境界が溶ける未来”はすでに始まっている。

外側に出す“私”はどんどん増えていく。
AIは私をコピーし続ける。
人格は分散し、ネット上に溶けていく。

でも同時に、私たちは気づいている。

「本物の私を守る場所」はまだ残っていると。

Z世代が向き合っているのは、
攻殻機動隊が20年以上前からずっと問い続けたテーマ──
『私はどこまでコピーされても、私でいられるのか?』

その問いこそ、この先の未来を考える上での鍵になる。

幼児退行

高校時代にカナダへ留学。日本大学芸術学部にて写真表現と心理学を横断的に学ぶ。卒業後は秘書業務を経て、BL情報サイトのライターとして執筆活動に従事。その後、地下アイドルグループのクリエイティブプロデュースを手がけ、ビジュアルディレクションや人事を担う。メガネがトレードマーク。

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