戦後80年、史実を未来への問いかけに。「知覧特攻平和会館」が伝えること

未来をのぞける博物館シリーズの第六弾。今回は、鹿児島県にある「知覧(ちらん)特攻平和会館」を紹介します。

昭和16年に開戦した太平洋戦争末期に、沖縄戦で繰り広げられた特攻作戦に関する史実を語り継ぐ当施設。世界では今も戦争が勃発している地域はあるものの、日本国内では太平洋戦争が終戦してから80年経った今でも、戦争は起こっていません。戦後は世界第2位の経済大国へと発展しましたが、令和の時代にもなると戦争体験者は少なくなり、未来に向けてその体験をいかに語り継ぐかが課題となっています。

特攻というテーマを語り継ぐ貴重な施設を通し、戦争体験を未来に伝えることについて考えていきたいと思います。

特攻の地で考える戦争と平和

鹿児島県南部に位置する知覧町。1975年に開館し、特攻に関する貴重な資料が見られる知覧特攻平和会館。

知覧に特攻平和会館が建てられた背景には、かつて陸軍の飛行場があったことがあります。福岡県にあった大刀洗陸軍飛行場の分校として昭和16年に知覧飛行場は開設されました。元々はパイロットの養成を目的に作られた飛行場でしたが、太平洋戦争が開戦してから半年ほどで戦局は悪化。

沖縄を本土防衛の第一線として絶対に守らなければいけない重要な地域と考え、知覧飛行学校は、「戦闘機などに爆弾を搭載し、搭乗員もろとも敵艦隊に突っ込む作戦」である特攻の基地となったのです。

館内には、沖縄戦における陸軍の特攻作戦によって戦死した1036名の遺影が反時計回りに、そして出撃順に並べられており、ご家族に宛てられた遺書や手紙、さらには寄せ書きや鉢巻など多数の遺品が展示されています。

海中から引き揚げられた海軍零式艦上戦闘機

当施設の方針としては、事実をありのままに伝えていくこと。風化させてはいけないが、内容をつけ加えて美化してはいけないことを心がけているそうです。

年中無休で開館しており、元旦から大晦日まで多くの人々が全国から訪れています。全国から500校もの修学旅行生が訪れているように、学生たちが戦争を学ぶために生かされている施設でもあります。

展示以外にも、語り部の方による講話もぜひ聞いてみてください。講話は館内の視聴覚室にて毎日行われており、1回の時間は30分ほど。特攻の歴史的背景や特攻隊員の遺書・手紙等の特色について、語り部の方々の想いのこもった解説を聞くことができます。

特攻隊員の方々が特攻直前まで滞在していた三角兵舎の復元

また、当施設は知覧平和公園の中に位置しており、周辺には特攻隊員の遺族の浄財によって建立された特攻平和観音堂、さらには隊員たちが寝泊まりをしていたほかトランプをしたり、明かりの下で遺書や手紙を書き記していた三角兵舎(さんかくへいしゃ)の復元なども見られます。

知覧特攻平和会館を訪問した際には、こうした建物にも足を運んでみてはいかがでしょうか。

戦争体験を未来にどう伝えるか

三角兵舎では、若き特攻隊員たちの写真も見られる

太平洋戦争が終戦を迎えてから80年が経過し、当時を知る方々が少なくなっている昨今。

知覧特攻平和会館では、15歳のときに飛行場の補修や整備をしていた方など当時を知る方が語り部として活動していたものの、高齢ゆえにそうした方々の生の声が聴けなくなっている現状があります。

とはいえ、200名近い方々のインタビュー映像を資料として残しており、1人につき4時間ほど、中には6時間近くにもわたるゆえ、量としてはかなりのボリュームになっているそうです。

今も展示室で見られる映像もあれば、まだ表に出せていない映像もたくさんあります。そのために、時代に併せてわかりやすく伝える方法を模索し、また今度来た時に新たな事実が見られるように、人々に忘れ去られないようにこれからも伝えていく必要がある。

当時のリアルな声が聞けなくなるなか、これからの未来に戦争体験を伝えていくために、知覧特攻平和会館はこれからも貴重な施設としてあり続けます。

特攻へ旅立った隊員に思いを馳せる

知覧の丘からは、特攻隊員たちが目に焼き付けた開聞岳を望める

知覧町内には、当施設以外にも弾薬庫掩体壕(えんたいごう)などの戦争を語り継ぐ展示が所々に見られるほか、町内の高台に上がった先には、山稜が美しい開聞岳(かいもんだけ)も見られます。

知覧基地を飛び立った特攻隊が最初に目印としたのがこの山であり、さらには日本本土の最後の光景でもありました。

九州には知覧特攻平和会館以外にも、福岡県の「大刀洗平和記念館」、鹿児島県の「万世特攻祈念館」など戦争について学べる施設がいくつかみられます。今では終戦の日である8月15日などで戦争が話題には挙がるものの、その記憶が風化しつつあるのが現状ではないでしょうか。戦争体験を後世に語り継ぐためにも、ぜひこれらの施設を訪れてみてはいかがでしょうか。

博物館に行ってみよう!

知覧特攻平和会館
住所:鹿児島県南九州市知覧町郡17881番地
営業時間:年中無休、9時-17時(入館16時半まで)
入館料:個人/大人500円 小人300円
    団体/大人400円 小人240円
公式HP:https://www.chiran-tokkou.jp/