“哲学する”からはじまる、世界の見方を問い直すデザイン(newQ 代表取締役 瀬尾浩二郎) #2040年代の働き方シリーズ

未来を考えるとき、私たちはつい“正しい答え”や“いい感じのビジョン”を求めてしまいます。
けれど、瀬尾さんの話を聞いていると、未来を切り拓く鍵はむしろ「問い」の側にあるのだと確信させられるのです。

元エンジニアからデザインの世界へ。
そこからさらに哲学へと活動を広げ、哲学雑誌『ニューQ』を立ち上げ、著書『メタフィジカルデザイン』で「つくる」と「哲学する」という営みを探究してきた瀬尾さん。

その歩みは、一見バラバラに見えて、すべてが“世界の見方を問い直す”という一本の線でつながっていました。本記事では瀬尾さんの語りを中心に、哲学すること / デザイン領域の広がりと課題感 / 未来の捉え方の変遷 / 言語を超えたデザインの可能性 を辿っていきます。

瀬尾浩二郎氏
newQ(株式会社セオ商事) 代表取締役

Creative Director / Editor / Writer

新しい問いを考える哲学カルチャーマガジン『ニューQ』編集長。リサーチや編集、サービスデザインを専門とする会社、newQ(株式会社セオ商事)代表。哲学の手法を取り入れたワークショップや、人文学の知見にもとづくリサーチをおこないながら、さまざまな組織との仕事に携わる。

エンジニアリング・デザインから、哲学することの探究へ

― 「哲学する」への探究と「面白さ」

瀬尾さん –

最初はエンジニアとしてコードを書いていたのですが、そのうち広告の仕事や企画の仕事にも携わるうちに、だんだんとサービスデザインの仕事がメインになっていきました。そうやって領域が広がっていった感じですね。

瀬尾さんはやがて独立し、自分の会社をつくることになりました。
そこで起きたのが、思いがけない“哲学化”だったそうです。

瀬尾さん –

どういうわけか、哲学に強いメンバーを採用し(笑)、『ニューQ』という哲学雑誌を作る流れになりました。

『ニューQ』は、いわゆる“哲学の専門誌”ではありません。
もっと素朴で、もっとラディカルな雑誌です。

瀬尾さん –

もともとSFの雑誌を作りたいと思っていたんです。ところが、SF好きの友達たちと話しているうちに、哲学の雑誌をつくると面白いかもみたいな話になって。

ただ、哲学そのものというより、何かを“哲学する”ってどういうことなんだろう、っていうのがテーマです。哲学研究者の人に話を聞くだけでなく、哲学以外の分野で活動されている方がどういうふうに”哲学してる”んだろうということを取り上げたり、読者も一緒に読みながら問いについて考えられるような雑誌を目指しています。

“哲学する”という営みを、そのままコンテンツにする。
この姿勢は、瀬尾さんのデザインの現場にもそのまま持ち込まれています。

瀬尾さん –

実際のデザインの案件でも、哲学研究者や社会学者、文化人類学者に協力してもらいながら、リサーチしたり、物を作ったりしています。

その活動の中で書かれたのが、著書『メタフィジカルデザイン』です。

瀬尾さん –

哲学を事業にしている会社として、興味をもった編集者に声をかけていただいたのがきっかけなのですが、いわゆるビジネス書ではなく、 “デザインと哲学をどう繋げて考えられるか”というテーマで書かせてもらいました。

問いを立てることや概念工学といった手法にはじまり、 実際にものを作りながら哲学するってどういうことなのか、 そんな取り組みや問いを掘り下げた本です。

エンジニア、編集、サービスデザイン、そして哲学。 違う領域をぐるぐると回りながら、
瀬尾さんの仕事の中心には、いつも「問い」とともに「面白さ」がセットに語られているのも印象的でした。

瀬尾さん –

本当はデザイン会社というよりも、コンテンツメイカーとしての立ち位置を目指しているのかもしれません。デザインをはじめとしたビジネス的な側面とは別の文化的な側面をもっと形にしたくて、趣味のようなところでもあるんですけど、ニューQではグッズやZINE、イベントなどを企画しながら、自分達が面白いと感じられることを探究しています。

面白いものは面白いでいい。興味関心を持ったことを全て、無理にビジネスに繋げなくてもいいんじゃないかという想いもあります。

newQが毎年夏に開催している「問い」と「概念」の祭典 『問いフェス』。
2025年はプレゼンテーションと共に、ボウリングを楽しむユニークな形で開催された。
TシャツやZINE・カセットテープなどのグッズも販売。

ひろがり続けるデザインの領域

「クラフト」か「コンセプト(概念)」か。デザイン現場の変遷で表出する問い

瀬尾さんのキャリアは、グラフィックデザインやWEBデザインという視覚的な領域が、いわゆる「UX」「体験・経験デザイン」へと広がってきた時期と重なります。

瀬尾さん –

自分はキャリア的に、ユーザーの体験や経験をテーマとしたユーザーエクスペリエンスデザイン(UXD)が広まっていく過程を多く見てきた世代だと思います。

現在では、経営や社会システムさえも「デザインする」という単語が使われています。
瀬尾さんは、その広義のデザインという領域をどのように見立てているのか。“意味や分野が広がりすぎたデザイン”という批判もあることを踏まえつつ、意見を聞きました。

瀬尾さん –

デザインが対象にするものごとが広くなりすぎた、という批判はありますし、自分もその批判に同意するところもあります。

経験をデザインする”って言ったときに、 本当に人の経験なんてデザインできるの?という反論について考えることもありますし、業界自体「そもそもデザイン思考は本当に良かったのか」という反省の態度も見られはじめています。

また実際に手を動かすこと —— クラフト —— が軽視されているのではないかという批判も多いです。

一方で、その広がりがデザインの可能性を生んでいる側面もあると続けます。

瀬尾さん –

文化人類学者や社会学者の方と一緒にリサーチをするようになって、新しく希望を感じているところがあります。

環境問題や植民地主義といった様々な社会の問題の原因となっている資本主義的な価値観を転換させるために、—— デザインがそのような価値観を助長している側面もあるのですが —— まだデザインにできることがたくさんあるな、とも期待してしまうんです。

そのうえで瀬尾さんは続けます。

瀬尾さん –

人文よりのリサーチから得られることは多いのですが、やっぱりなんか手を動かしているうちに、だんだん気づいてくることがある
デザインをとおして考えることで新しくものが生まれてくる感じがあって。

そこを通らずに言葉や体験を伴わない知識だけで考えてしまうと、出てくるデザインがつまらなくなりがちなんですよね。

だから瀬尾さんにとって、デザインは「クラフトか、コンセプト(概念)か」ではなく、その往復運動そのものだとも言えるのかもしれません。

瀬尾さん –

言語的な理解の外に行くみたいなことは、結構重要なのかなと思って。  

そのためには実際に手を動かしながら考える必要があると思っています。

デザインの現場に「哲学する時間」を持ち込む

本質的な問いが置き去りにされても、デザインは進められてしまう

では、哲学することには、実際のデザインの現場でどんな意味があるのでしょうか。

瀬尾さんは、著書にも書かれたニュースメディアの事例を挙げてくれました。

瀬尾さん-

例えば “良いニュースとは何か” って、本当はすごく哲学的な問いだと思うんです。

でも実際の現場だと、そこをきちんと議論しないまま、なんとなく “良さげなニュースサイト” をつくって満足してしまうことがある。

本質的な問いが手つかずのまま、プロジェクトが進んでしまう。
結果として、使いやすくはあるけれど“何を良しとしているのか曖昧なサービス”が生まれてしまうことに、瀬尾さんは危機感を抱いていると続けます。

瀬尾さん-

ただ手を動かしているだけだと、どうしてもそういうところが抜け落ちてしまうことがあるんですよね。

ただ、この本質的な問いを扱うような営みはデザイナーだけが担うものではないので、デザインに限らず様々なメンバーとともに一緒に考える場を開くということをやっています。
特にサービスは実際に運用する人やユーザーとなる人が重要なので、なるべく多くの人にむけて場を開くことが重要です。

“未来への違和感”──未来より過去の方が面白くなってきた

― 「未来は自由ではなくなった」という感覚と「80年代リバイバルの謎」

話題は「未来」というテーマに移っていきます。
瀬尾さんは、「昔ほど未来を楽観的に見られなくなった」と率直に語ります。

瀬尾さん –

意外なことに大抵のSFは未来を暗く描くことが多いのですが、ChatGPTをはじめとするAIが現実のものになってきて、社会状況も含めてあらためて”未来は暗そうだな… という感じが深まってきているのかもしれません。

若い頃はもっと “見たことのない未来を描きたい”という気持ちもあったんですけど、最近は過去の歴史を知ることの方が面白いと感じるようになってきました。

リサーチの現場でも、 「未来について考える」という依頼であっても、実際にやっているのは過去の掘り下げが多いと続けます。

瀬尾さん-

未来を考えると言われても、結局、過去のことをいろいろ掘り下げていることが多いですね。
希望のある未来=シリコンバレー的なイノベーション、というイメージが疑わしくなっている今、 “これが未来かも” という手触りを例えば1900年のパリ万博だったり、欧米以外のアジアの国が思い描く未来像だったりと、他の年代や地域に探しに行くと面白い発見があります。

同時に、未来と「自由」がセットで語られてきたことにも違和感があるそうです。

瀬尾さん-

iPhoneのようなモバイルデバイスをはじめ、技術の発展とともに人はより自由になれる、みたいなメッセージってありますよね。

でも今は “未来になって技術が発展したところで人類は本当に自由になれるのだろうか?という疑問の方が強くて。むしろ、今までできたことがどんどんできなくなっていく側面もあるんじゃないか、という不安がある。

“未来を知りたい” と訪ねてくるクライアントって、実は最近あまりいなくて。どちらかというと “今この時代において、何をやっていくべきか”を考えたいとか、 “現状を再認識したい”という相談が多いです。
コロナ禍の時はリモートワークをはじめとした環境変化を前に未来を予測し経営に役立てたいというニーズが多かったけど、最近は未来予測やSFプロトタイピングの仕事の相談は以前より減った印象があります。

文化の側面でも、そんな変化が表れています。瀬尾さんはここでも面白さを忘れません。

瀬尾さん-

過去を掘り下げていくといろんな面白い疑問も湧くんですよ。例えば、80年代って、ずっとリバイバルし続けているなと思っていて。

自分が若い頃、90年代辺りだと “80年代ってちょっとダサい”と思っていたんですけど(笑)、
今では一番振り返られることが多い印象が個人的にあって、もしかしたら一番人気のある年代かもしれない。

その80年代の振り返り方も、2010年代と2020年代だと微妙に雰囲気が違ったりして、こういった違いを掘り下げていくのも面白そうですね。過去のことをどのように振り返っているか時代を追って評価してみたいというか。

あと、過去でなく未来の話になるんですけど、例えば「シンギュラリティ」のような未来を表すキーワードがトレンドになることがこれまで多かったのですが、最近はそのようなトレンドがあまりないのも未来を考えづらくなっている要因かもしれません。
そういうときに、どこかから新しい言葉を持ってくるのではなく、自分たちで過去や未来を掘り下げて新しいワードを作っていけばいい、という話題は社内で度々上がります。

概念工学のように、自分たちで未来を切り拓く概念をつくる方が面白いんじゃないかと。

言語を超えて考える

― デザインの未来は、“非言語”の側にあるかもしれない

瀬尾さんの話は、「言語」や「思考」への課題感とつながっていきます。

瀬尾さん-

みんな言語的になりすぎたんじゃないか、という批判があって。
AIも人間の言語活動を学習して、言葉のロジックで返してきますよね。
でも
そもそも人間って、そんなに言語的な存在なんだろうか?と。

もっとイメージや感覚で考えている部分があるのではないか。
それをうまく扱う方法を、いま探しているそうです。

瀬尾さん-

未来のイメージも、言葉で”こういう未来ではこういうことができます” と説明するより、一枚の絵を見せて “これは確かに未来だ” としっくりくる方が説得力があったりします。

言葉だと納得できないけど、絵を見せられると納得する、みたいなことってありますよね。

その感覚を確かめるために、映像というメディアにも挑戦しようとしています。

瀬尾さん-

論文で哲学するのと、雑誌で哲学するのでは扱うテーマも内容も変わってくるという学びがあったのですが、おそらくメディアが変わると思考や論理の形態も変わるのだと思います

だから最近は、映像で何かやってみたいんです。でもまだやり方が分からなくて、ただカメラの前で話しているだけになってしまうこともあって(笑)。
それだけではない、もっと面白いやり方を探しているところです。

言葉に頼りすぎない、イメージや身体感覚も含めた“哲学する方法”。
それは、2040年代の学び方・考え方にもつながっていくのでしょう。

当社の兆しマップの中でも、瀬尾さんは特に2050年代以降をまじまじと眺めていた。
未来について違和感を持ちつつも、とても未来が好きなのだと背中が語っている。

2040年代の“しごと”──概念をつくる仕事が当たり前になる

最後に、「みんなが哲学するようになったら、どんな仕事が生まれると思うか?」と尋ねてみました。

瀬尾さん-

難しい質問ですね(笑)。自分は本の中で、それぞれの仕事の中で『哲学する』ことの重要性について書いていたので、実は新しい仕事が産まれることはあまり想像していなかったんです。

そのうえで、瀬尾さんは「概念デザイナー」という役割の可能性を挙げます。

瀬尾さん-

新しい概念をつくる仕事、というのはあり得ると思っていて。
もちろん、これまでもデザイナーが新しい概念を発明することはあったと思うのですが、より意識的に概念をデザインするという仕事があるとしたら、それは新しい仕事だと思います。

実際に “概念デザイン”に取り組んでいる友人のデザイナーもいます。体験ではなく、より抽象度の高い概念そのものをデザインする、という仕事ですね。もしかしたら、コピーライターの仕事に近いかもしれませんが、広告ではなくもっと社会的な課題に取り組むイメージです。

メタフィジカルデザインも、その延長線上にあります。

瀬尾さん-

実は哲学も概念をつくる仕事ではあるのですが、一方で新しく概念を産みだすのは誰もが行ってきたことでもあります。

ただ、その中でデザインをとおして手を動かしながら抽象的な概念を考えていく営みを、わたしは本の中で『メタフィジカルデザイン』と呼んでいまして、概念デザインはそのような営みを専門的に行う領域になるのかなと思います。

未来を「予測する人」「解決法を示す人」よりも、
未来を支える“概念”や“問い”をつくる人が必要になっていく。
2040年代の働き方は、そんな方向へシフトしていくのかもしれません。

まとめ:2040年代の働き方の未来予報

瀬尾さんのお話しから、いくつか2040年代の働き方や新職業が見えてきました。
これからあらわれる{かもしれない}新職業として、いくつか、まとめて、おさらいしましょう。

概念デザイナー

まだ世の中に名前がついていない概念に名前をつけ、みんなが理解・語れる状態に仕立てるデザイナー

地域哲学士 / 問いソムリエ

哲学カフェや哲学対話など、市民や企業に哲学する場をひらく問いのファシリテーター&コーディネーター

あなたは2040年代、どのような働き方をしたいですか?

次回の#2040年代の働き方も、お楽しみに!

ソガコウタロウ

ソガコウタロウ

Futures Literacy Journal 発起人

未来像{HOPE}をつくる専門会社 未来予報株式会社 aka VISIONGRAPH Inc. aka SXSW Japan Office の 共同代表。未来に関わるプロジェクトをデザインしたり、リサーチしたり、未来の予報を作ったりします。 乗り鉄 / キャンプ / サウナ / 音楽 / 旅行 / ヨガ / 家庭菜園 などが趣味ワード。HeとでもTheyとでもお呼びください!

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