Futuristってなんだろう?から始める未来思考入門
Futurist(フューチャリスト)って最近よく聞くけど、実際どんな人たちなんだろう?
未来を予測する職業?SF作家みたいな?それともコンサルタントや研究者?
この記事は2016年より日本で未来像の専門会社を経営する筆者が「Futuristとは何か?」という定義から、世界で活躍する多様な実践者たちの事例、そしてなぜ今、組織・地域・教育の分野でFuturistが求められているのかを解説します。
世界最大級の未来のショーケースイベントSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)でも、毎年多くのFuturistが登壇します。SXSWにご興味のある方も、これを機会にFuturistについても知ってもらえると嬉しいです。
Futuristとは何をする人か?
未来を「読む」のではなく、「扱う」ための視座を提供する専門職
Futuristとは、未来の兆しをとらえ、そこから複数のシナリオを構築し、現在の意思決定や社会実装につなげる専門家のことです。
彼/彼女らの仕事は、未来を言い当てることではなく、未来の可能性を広げ、今にどう活かすかを考えること。このような未来思考は、変化が激しく予測困難な時代にこそ力を発揮します。
- 変化の“芽”を拾う:小さな兆しを大量に探索する
- 複数の未来像を描く:現在の延長線上にとどまらない未来のシナリオを設計する
- 現在へのアクションに落とし込む:バックキャスティング
一般的にはこのプロセスを使って、Futuristは企業の戦略や都市のビジョン、教育のカリキュラムまで、さまざまな場面に関与しているんです。
国内外で活躍するSXSWに登壇したFuturists 5選
ここからは主に世界最大級のクリエイティブ・ビジネス・イベントである、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)に過去登壇したFuturistをご紹介しながら、どんな人たちなのかを深掘りしていきます。その活動や手法の多様さに驚くはずです!
◾️ “選択系Futurist” の Amy Webb(アメリカ)
Future Today Strategy Group(Future Today Institute)創設者であり、SXSWでは毎年Tech Trends Reportを発表。日本でも名前が知られてきているFuturistのひとりと言えるでしょう。
AI、量子コンピューティング、バイオテクノロジーなど、100以上の未来トレンドを分析し、経営層や政策決定者に影響を与え続けています。
- 著書:『The Big Nine』『The Signals Are Talking』
- 会社WEBサイト:Future Today Strategy Group
2025年のSXSWでは、テクノロジーの進化により、これまでの既存のルールや枠組みが通用しない、“境界を超える=Beyond”な時代としてトレンドを紹介しました。加速する気候変動問題などに対して「AI ×⚪︎⚪︎」という掛け算の新たな技術的な革新によって、リビングインテリジェンスという新たな知能のエコシステムが生まれている事を示唆し、あるかもしれない未来の世界の解像度を高めるプレゼンテーションをしていました。彼女の語りの特徴は、GoodシナリオとBadシナリオをわかりやすく極端に表現し、人々の考えの選択肢を引き出していくところにあります。
近年ではSXSW期間中にForesight Master ClassというFuturistの思考法を教える講座も開催しており、未来思考を広げる動きは世界中で広がっていることを感じさせますね。
◾️ “感覚系Futurist” の Sofie Hvitved(デンマーク)
Copenhagen Institute for Futures Studies(CIFS)所属。メディア、エンタメ、メタバースなど文化系Foresightを担当するFuturistです。
Sofie氏は、SXSW2023には「Metawashing! A Futurist’s View on the Metaverse」というセッションに登壇。メタバースの本質と誤解、そしてその未来的可能性について、Futuristの視点から問い直しました。Metaverse(メタバース)という言葉がマーケティングやテック業界によって過剰に利用され、概念が“洗濯”されている(Metawashing)と指摘。バズワード化した現在の状況に警鐘を鳴らしつつ、本来のメタバースが目指していた持続的で包括的な社会空間や、身体性を伴う新しい存在のあり方に再び焦点を当てました。メタバースを逃避や効率化といった文脈ではなく、人間らしさを取り戻す場としてとらえなおし、未来における自己表現・経済圏・学び・信頼の構造変化についてまで視野を広げるきっかけを与えてくれるセッションでした。
技術や企業・マーケット主導で語られるメタバースが多い中で、「物語」や「感覚」に根ざしたメタバースの未来像を問いたのが彼女らしいと言えるでしょう。
Sofie氏の所属するCopenhagen Institute for Futures Studiesは、Future DesignやFutures Literacyの分野でも著名な非営利研究所。 SXSWをはじめ、2025年からはじまったSXSW Londonでもセッションを行っており、未来像を専門とする筆者の会社も長年ベンチマークにしている機関のひとつです。
◾️ “橋渡し系Futurist” の Ian Beacraft(アメリカ)
Ian Beacraft氏は、Gonzo(気が狂った) Futurist の異名を持つFuturist。シカゴのSignal & Cipherの創業者兼Chief Futuristとして、世界の先進企業を顧問しています。彼の特徴は、研究室レベルの新技術を実験的に導入し、社会や組織への影響を生きた問いとして提示するスタイルです。
SXSWには2019年から2025年まで連続登壇。2019年には短いプレゼンテーションフォーマットでPizzaとPornにかけながらテクノロジーの先読みがいかに必要なのかをコミカルにプレゼンテーションして人気を獲得。2021年・2022年・2023年はディープフェイクやメタバースが人間に与える影響を示唆し、2024年・2025年は組織におけるAIとの働き方についての新たな視点を提供しました。
効率性を重んじてきた会社組織の評価指標やヒエラルキー構造をいかに超えていけるのかなど、“未来への反応力”を力強く問い続ける姿が印象的です。現代のビジネスパーソンが感じている違和感やモヤモヤを、わかりやすく未来の世界へと繋ぎこむ橋渡しタイプのFuturistと言えるでしょう。
◾️ “創作系Futurist” の Don Allen Stevenson III(アメリカ)
創作分野を中心に、最新のテクノロジーを用いた創造的な表現の可能性を探求・普及しているFuturist。AR、VR、AIなどの先端技術を用いたプロジェクトに数多く関わり、教育・芸術・ビジネスの分野を横断する発信を行っています。
- 著書:『Make A Seat: Discovering Opportunities, Leveraging Technology, and Building Resilience』
- 個人WEBサイト
SXSW2025では、社会人向けのビジネススキル教育動画プラットフォームMaster Class at Workの代表とともに登壇。AIによって人間のクリエイティビティを拡張し、実際のビジネスに活かす方法を紹介しました。セッションではAIを創造の“共創者”として活用する彼のユニークなアプローチを、有名な児童文学「ハロルドと紫のクレヨン」に例えながら、描いたものが現実になるクレヨンを持つ主人公ハロルドのように、AIを使いこなすことで誰もがクリエイティブな創作活動を行えると自らの実践を語り、多くの観客をワクワクする未来へと引き込みました。
クリエイターでもあり、アーティストでもあり、教育者でもある。自らが試行錯誤する創作の実践者である経験談をもとに、失敗を恐れず、柔軟にチャレンジし続ける姿勢=レジリエンスこそがこれからのAI時代においてより重要な創造の原動力となってくるという、納得感のある語りをしてくれました。
◾️ “箱庭系Futurist”のMaiko Miyagawa(日本)

日本ではまだFuturistという肩書きは少数派ですが、実践者は確実にいます。
VISIONGRAPH Inc. / 未来予報株式会社の宮川麻衣子は、SXSWでの定点観測・未来像の視覚化・教育における未来思考の道具開発など、Futuristの活動を日本で10年間続けてきました。SXSWのセッションには2回登壇したことがあり、1回目は日本におけるCBDマーケットの分析から見る癒しの未来、2回目は2040年以降に起こるかもしれない 性愛の未来に関してプレゼンテーション / パネルセッションをしています。
彼女の特徴は、あるかもしれない未来を見える化し、使える形にするという点にあります。企業の未来像も、都市のビジョンも、教材も、すべては頭をモチのようにやわらかくして未来を日常で箱庭のように発想するための工夫なのです。
兆しを集め、社会像を描き、そこに生きる未来人の価値観が反映された世界設定を考える。誰もが自分事として考えやすい“舞台=箱庭”を用意するのが特徴と言えるでしょう。
Futurist in Residence(常駐型Futurist)の潮流 ─ 組織に未来思考を置く動き
SXSWでは、2010年代から企業におけるFuturistの重要性は頻繁にセッションで話題に上がっていましたが、近年また新たな潮流が現れています。
2024年のSXSWで行われたセッション「Why Your Organization Needs a Futurist in Residence! 」では、アメリカの全国規模のウェルビーイング財団が Futuristを常駐職(in Residence)として配置した実例を紹介しています。
SXSW 2026 Schedule | Rapid and unpredictable transformations in technology, social interaction, work and medicine are deepening racial and social inequality and stymying efforts to develop equitable solutions. To grapple with this dizzying change, the country’s largest health foundation decided to embed futurists-in-residence in its Pioneering Ideas for an Equitable Future team. Led by program director Lori Melichar, two recent futurists will explore trends related to health equity, reflect on lessons learned fro...
Lori Melichar 氏率いるロバート・ウッド・ジョンソン財団は、健康格差を問うプログラムに Futurists-in-Residence を組み込み、未来洞察を現場に直接活かす取り組みを実施しました。クマベイスの田中さんの記事が非常にわかりやすいのでぜひ参考にしてください。実際、このプログラムからインスピレーションを受け、組織や地域でもFuturistを配置する動きが広まりつつあることがうかがえます。
カンファレンスとフェスティバルを融合させた最先端技術などの祭典「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」が、米国南部テキサス州オースティンで開幕した。3月8~16日の日程で、カンファレンスのセッションや映画上映会、アーティストによるライブ...
大手企業で中心に行われていたFuturist in Residenceですが、近年では公共団体・非営利組織などが未来思考を戦略のコアに据える手段として注目を集めています。
Futurist in Residenceがパブリックセクターでもたらす価値は、下記のようなものがあるでしょう。
- 組織内の未来のアンカーになる:定期的な兆候観測や未来対話の場を創出
- 変化の受動性から能動性へ:未来変化をただ「待つ」ではなく「仕掛ける」文化へ転換
- 関係者全体への共有知への転換:未来視点を組織横断化・共創化する足場を提供
- 制度・文化の未来対応力の強化:単年度計画から複数年シナリオ思考への進化
日本ではまだ一般的な導入ではないものの、この動きは、企業や自治体、教育機関でも応用可能ですよね。
たとえば企業がFuturistを常駐させるのはもちろんのこと、自治体がまちづくりFuturistを採用する、大学がFutures Literacy担当の教育支援スタッフを置くなど。
企業よりも長期視点での視野が必要なパブリックセクターだからこそ、これからは技術や産業の専門性が高いFuturistにとどまらない、市民活動に根差したFuturistの人材育成が求められていくと考えています。
「未来」を専門性の高い誰かから教わるのではなく、組織や地域に根差したもの・対話をしながら自分たちが欲しい未来を考えていくという視点の転換が、ここ数年でも日本で起こっていく流れを大きくしたい。まさにこれが、このFutures Literacy Journalで目指している世界です。
当社は未来予報アカデミー®︎という、個人が未来予報の作り方を学べるサブスクリプションサービスも展開しています。これをきかけに、ここ数年間で、Futuristが日本中に増殖するための仕組みをさらに大きくしていければと思っています。
まとめ:なぜFuturistが今、求められるのか?
組織においては… 🏢
- 不確実性の高い時代における“思考の安全装置”
- KPIだけでは語れない戦略的思考の補助線として
地域・行政においては…🏘️
- 長期ビジョンの共創とシナリオプランニング
- 参加型・対話型の政策設計への活用
教育においては…🏫
- Futures Literacy(未来のリテラシー)の導入
- 「問いを立て、複数の視点で考える力」を育てる
未来を、誰かのものではなく、自分たちのものに戻す
Futuristとは、未来を“当てる”人ではなく、未来を“ともに扱う”人です。
特別な人に任せるのではなく、問いを持つすべての人が未来を考えられるように。
その伴走をするのが、Futuristの役割になっていくとも言えるでしょう。
私たちVISIONGRAPH Inc. / 未来予報株式会社も未来像の専門会社として、
「未来を、みんなが使いこなせる道具にする。」
というミッションを遂行していこうと、世界中のFuturistの活躍をまとめながら改めて背筋が伸びるのでした。