シリーズ2030年代の働き方では、さまざまなテーマでこれから現れる{かもしれない}職業に従事する未来人をご紹介します。この未来予報®︎を見て、未来の世界に思索をめぐらせてください。
テクノロジーの進化により、私たちの「情報の扱い方」や「お金との関わり方」が大きく変わりました。分散型ネットワークや個人データの活用、AIによる信用評価や意思決定支援が日常に浸透し、経済や情報の流通のかたちも急速に多様化しています。
こうした背景のなか、2032年には新たな職業が次々に誕生しました。
今回は、その中でも特に代表的な3名をご紹介します。彼らは、「持続可能な社会」の実現を、「情報」と「金融」という視点から支える専門家たちです。
彼らは一体どのようなかたちで、未来の経済や社会に貢献しているのでしょうか?
オープンデータとアイデアで行政と共に街を便利にする:シビックハッカー
エイブリー
シビックハッカー
わたしの仕事は、行政などの公的機関が 公開しているオープンデータを活用して 地域向けの便利なサービスを作ることです。 ハザードマップを見やすくしたり、補修 すべき道路の報告システム、税金の使わ れ方を視覚化したり、沢山作りました。 いま取り組んでいるのは、公開されてい る街の3Dデータと組み合わせて、市民 がARのコンテンツを作れる仕組みです。 新たな観光の楽しみ方のひとつとして、 市民一丸となって取り組めるはず。 わたし達は、街の悪いところを最短で 改善し、良いところを最短で最大化する、 グッドなハッカー集団なのです。
「シビックハッカー」──都市のインフラと市民参加を結ぶ、データのリデザイナー
都市のあちこちで、道路や公園、公共施設といった「目に見えるインフラ」は老朽化が進む一方、それらに紐づく「見えにくい価値」は未だ活用されずに眠っている――。そんな課題に対して、新たな視点からアプローチする仕事が注目されています。
エイブリーは、オープンデータと市民の行動履歴、都市の3Dインフラマップを統合することで、「公共資産が生み出す価値の流れ」を可視化する取り組みを行っています。
「これまで、インフラは“あるかないか”だけで評価されてきました。でも本当は、市民がどれだけその場所を使っているか、どんな思い出があるか、といった“非貨幣的価値”も含めて設計されるべきなんです。」
たとえば彼のプロジェクトでは、地元の公園がいつ・誰に・どう使われているかを可視化し、その「市民利用価値」をスコア化。スコアの高いエリアには、地域通貨によるリワードが還元され、市民の参加によって街がアップデートされていきます。
さらに、使われていない空き地や施設の価値を再評価し、AR上で「未来の利用案」を市民が提案・投票できるインターフェースも開発中。投票や提案が実現されると、提案者に対して“参加報酬”が支払われ、情報と信用の流通が日常の営みと直結するようになっています。
この動きは、単なるまちづくりの域を超え、「公共の価値」が貨幣と連動しながら進化する、未来の“市民経済”のモデルケースとして注目されています。
すでにある「シビックハッカー」につながる先進事例

Code for Japanは市民(Civic)が技術(Tech)を使って地域や身近な困りごとを解決する、シビックテック活動に取り組む団体です。Code for Japanの仲間と一緒にシビックテックを楽しみましょう!
個人情報を「かしこく」運用する人々の遺伝情報を守る司書:DNAライブラリアン
ソフィア
DNAライブラリアン
わたしの仕事は、人々からご提供頂いた DNA情報を管理し、最適な形で運用する ことです。個人の遺伝子診断キットから、 医療、そしてデータ資産運用用途など、 様々な所からデータをお預かりしています。 データの活用方法は人それぞれです。 お客様のご希望次第で、徹底的にデータ を管理・運用します。例えば、この前は 親族が難病になられた方が、その分野の 研究に関してはデータを公開して運用し て欲しいというお願いがありました。 しっかりと公開先から報酬も頂き、提供 者には還元しますよ。私たちの使命は、 かしこく運用するのがモットーですからね。
「DNAライブラリアン」── 個人データを“学び”と“資産”に変える、新しいリテラシー教育
教育と金融が交差する場所に、新たな役割「DNAライブラリアン」が生まれています。この職業は、子どもや若者に対し、「自分のデータがどんな価値を持ち、どう使えるのか」を、実践的かつ創造的な方法で教えるものです。
「今の子どもたちは、自分の声・顔・歩き方、時にはDNAまでもが“データ”になる社会を生きています。だからこそ、“情報とお金のリテラシー”を楽しく、主体的に学べる環境が必要なんです。」
ソフィアが携わる教育プログラムでは、実際の遺伝子データやライフログを匿名化したシミュレーション素材を使い、AIとの対話やゲーム形式のシナリオで、「どんなときにデータを共有すべきか」「どうすれば自分に還元されるか」といった意思決定を学びます。
授業の一環として、自分たちの架空のプロフィールを使って研究機関や企業と“契約”し、仮想通貨での報酬を得るロールプレイを行うことで、情報が金融とどう結びつくのかを体感的に理解できる仕掛けも。
この教育スタイルは、「データを売る」ことを推奨するのではなく、「自分の情報をどう扱うかを選びとる力」=データ・リテラシーの自立を育てることを目的としています。子どもたちはその中で、価値観と判断軸を磨きながら、自分自身の可能性に気づいていきます。
これにより、学校はもはや知識を一方的に受け取る場所ではなく、「情報の選択と交換を体験するラボ」となり、未来の市民たちは、“学びながら投資する”新たな感覚を自然と身につけていくのです。
すでにある「DNAライブラリアン」につながる先進事例
かかりつけ医と患者の生活をデータでつなぐ行動分析者:ヘルスログアナリスト
ミア
ヘルスログアナリスト
わたしの仕事は、許可をもらった範囲で ウェアラブル端末で取得できるデータを 解析して、医療機関にお渡しすることです。 バイタルデータだけではなく、ひとりひとりの行動習慣までを加味して、データを分析。 医療機関の受診と受診の間に何があった のかをまとめて医療機関に橋渡しします。 様々なデバイス・アプリのデータから、 カルテには載らない情報を補完することで、 より正しい診療が可能になります。 患者さんもアプリやデバイスの利用料を はじめ、保険料が安くなるように設計さ れています。定期的な健康相談も受付て いるんです。継続は力なり、ですからね。
「ヘルスログアナリスト」── 関係性を可視化し、持続可能なコミュニティをデザインする
地域の医療・福祉・暮らしを横断する情報をつなぎ、コミュニティの健全性を可視化・最適化する新たな役割、それが「ヘルスログアナリスト」です。彼らは、バイタルデータや行動ログなどを通じて、個人の健康状態だけでなく、関係性や地域のつながりに潜む課題まで捉える専門家です。
「誰かの健康だけを良くするのではなく、その人を取り巻く“情報の流れ”や“生活のつながり”に目を向ける必要があるんです。たとえば、独居高齢者の健康リスクは、社会的孤立から始まっているケースも多いんですよ。」
ミアは、ウェアラブル端末や地域アプリから得られるヘルスログを活用し、行政や医療機関と連携。集まったデータから“リスクの兆し”を早期に検知し、必要な支援をマッチングします。また、ヘルスログの提供に応じて、地域通貨や保険料の優遇など、データに基づく新しい経済的インセンティブも設計しています。
この仕事は、医療のための「記録者」ではなく、**地域全体のウェルビーイングをデザインする“アナリスト”**として、都市や地域の未来を支えているのです。
さらにミアたちは、個人の情報が「評価」や「管理」のために使われるのではなく、市民が自らの健康と地域を“選択・支援”できる仕組みづくりに取り組んでいます。匿名化されたデータは、地域の健康プロジェクトや介護支援AIの学習素材として活用され、希望者には収益の一部が還元される仕組みに。
この取り組みが広がることで、コミュニティは単なる住まいの集合体ではなく、「支え合いのネットワーク経済」としてアップデートされていくでしょう。
すでにある「ヘルスログアナリスト」につながる先進事例
3人の共創によって、ある{かもしれない}2032年のニュース
このニュースまであと…
📡【2032年3月28日 JITA国民新聞】
『分散型市民データ経済、ついに始動:“MyDataウォレット”で収入と信用がつながる社会へ』
🎙️本日、政府と複数の都市が連携して実施する新たな社会実験「City Loop Program(CLP)」が正式に開始された。このプロジェクトでは、シビック・ハッカー、DNAライブラリアン、ヘルスログアナリストらによる共創によって、市民のあらゆる生活データが「資産」として活用される、新たな分散型経済モデルが構築されている。
中核となるのは、市民一人ひとりが所有する「MyDataウォレット」と呼ばれる個人向けの分散型データポートフォリオ。これには、DNA・健康ログ・移動データ・公共参加記録など、各人が選択して提供する情報が格納されている。
💡【データは「信用」だけでなく「利便」に変わる!?】
市民は自らのデータを、認証された研究機関・企業・行政にライセンスする形で一時的に提供し、その対価として「City Token」という地域連携通貨を受け取る。このトークンは、公共交通の割引、医療費控除、地域店舗での利用などに使えるだけでなく、個人の信用スコアの一部として評価され、ローン審査や地域貢献度として可視化される。
DNAライブラリアンが運営するデータカストディ機構では、提供されたDNAデータが研究・創薬に使用され、その成果に応じた配当がウォレットに自動反映される仕組みも。個人のデータが“ただ提供されるだけ”でなく、資産として運用される時代に突入した。
💰【市民ひとりひとりが“投資家”になる時代】
ヘルスログアナリストのチームは、ウェアラブルデバイスで取得された日常の健康データをスコア化し、医療保険会社や自治体との契約条件に組み込んでいる。市民は健康習慣によって保険料が下がるだけでなく、一定期間良好な状態を維持することで「リスクヘッジ報酬」としてCity Tokenを受け取れる。
さらに、シビック・ハッカーたちは、道路・施設などの公共インフラ状況を市民から直接報告できるシステムをブロックチェーン上で開発。改善提案や高精度な報告をした市民は、公共貢献度としてトークンを得るだけでなく、「地域参加債券」のような新たな金融商品にも参画できるようになった。
👀【コラム:データは通貨になるのか?】
この試みは、データが通貨・信用・投資の起点となり得ることを示した画期的な実例であり、「情報流通と金融の再設計」の先駆けとして注目されている。
CLP事務局長のレオ・レオナルドーは記者会見でこう語った。
「これまではお金だけが資産でした。でもこれからは、生活の積み重ねも、知識の共有も、健康の管理も“価値”として循環していく。市民全員が“参加者”であり、“投資家”であり、“共創者”なのです。」
2032年、データと金融が交差する新たな市民経済モデルが静かに、しかし確実に始まりつつある。
未来の情報流通と金融を支える職業たち
2032年、情報流通と金融の価値観は大きく変わりつつあります。
エイブリーのようなシビック・ハッカー、ソフィアのようなDNAライブラリアン、そしてミアのようなヘルスログアナリスト。彼らのような新たな職業は、分散型のデータ社会において、人と人、都市と個人、そして価値と信用をつなぐ重要なハブとなっています。
都市のインフラや健康、アイデンティティといった日常のすべてがデータ化されるなかで、個人が自身の情報をどう扱い、どう共有し、どう価値化していくかが問われる時代。
エイブリーたちは、公共と個人の境界を問い直しながら、より公正で創造的な“情報経済”の未来を切り拓いています。
これからの社会では、こうした“情報と金融の交差点”に立つ新たな仕事が、私たちの暮らしやつながり方を根本から変えていくでしょう。
2032年、あなたはどんな仕事をしていたいですか?